地理学評論
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東京都足立区の本木における皮革工業と家具工業についての考察—巨大都市下町地域の零細工業の存在形態—
大谷 猛夫
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1973 年 46 巻 9 号 p. 583-599

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抄録

本稿は,東京都足立区の本木地区における零細工業の存在基盤と階層構成について考察する.
1) 日本工業の中で独占企業への生産の集中がおこなわれていない部門は,雑貨工業をはじめとする一部の軽工業である.
II) 雑貨工業は,独占資本が生産過程に直接関与することが少なく,問屋制的な家内工業の様相を強く残している.
III) 東京都足立区本木地区には,大正末期以来,皮革工業を中心とする零細な自営工業が密集している.
IV) 本木地区の零細工業は,業主と家族労働に主体をおく自営の家内工業がその中心である.ここの自営業者は,中小「企業」を指向する少数の上層自営業者を除けば,もっぱら,より大きな経営から原材料の支給をうけ,それを加工し,それに対する加工賃(事実上の労働賃金)を受けとる経営である.
V) これらの下層自営業者は,原材料・完成品の市場から遮断されていると同時に,他の経営に外注もせず,雇用労働力も持たず,系列・外注関係の最末端に位置している.景気の調整弁として,不況時に,まっ先に切り捨てられる不安定な存在である.

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