地理学評論
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世界における死亡の季節変動形態の研究(第III報)
脳卒中及び心臓病死亡について
籾山 政子片山 功仁慧
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1974 年 47 巻 8 号 p. 481-497

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抄録

世界的にみて総死亡および乳児死亡に存在した季節変動形態の地域による型の相違は脳卒中・心臓病という成人病にもあてはまる.すなわち,寒冷で人工気候の発達した北欧・北米の緩慢型と比較的温暖な中欧・南欧および日本の冬季集中型とである.
現在最も緩慢な形態を示すアメリカ合衆国も地域的にみればその形成過程に差がある。すなわち,太平洋岸のような比較的温暖な地域における一層の緩慢化,寒冷な北東部の冬季集中からの緩慢化,南部における夏山征服後の緩慢化,等が挙げられる.また平生温暖な地域における異常寒波の影響も無視できない。また人工気候の発達した大平原北部では,乳児死亡は最も緩慢な形態であったのに反し,脳卒中・心臓病は死亡の冬山が明白である.これは乳児と成人との人工気候の関与の相違を如実に示したものと思われる.日本では北海道だけは冬季集中を克服し,北欧・北米に近い緩慢な形態を呈する.
脳卒中の中では,死亡の冬山は脳出血と脳硬塞の両者から構成されるが,夏季平均気温が約24°Cを超す地域にみられる死亡の低い夏山は,脳硬塞によって構成される.またこの夏山の高さの度合には地域差がみられる.この夏山の存在,さらに高さの度合に地域差がみられることは,脳硬塞が高齢者に多い疾患であるだけに,人間の気候環境への馴化の問題を示唆するものとも思考され,今後さらに追求を要する課題となろう.

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