本研究は電子部品工業を採り上げ,この工業自体の構造とその地域的側面,また地域の地理的・社会的条件(農村)と工業との関係を解明しようとしたものである.
その結果,電子部晶工業の生産組織は専門メーカー・分工場・下請工場・内職というヒエラルヒーを構成し,それに対応した形で労働力の質が変化すること,また地域的な配置関係も伊那市の中心部に専門メーカー・完成品生産の工場が集中し,周辺の農村部では一部工程の下請工場がほとんどを占め,そして労働力の質もそのような配置関係に対応することが明らかとなった.
農村との関係では,農村の下請工場を支えているのは,農村の中の経営耕地規模の小さな第2種兼業農家の主婦層であり,伊那市中心部の大規模工場へは農村の若年労働力が吸引されていること,そして天竜川の河岸段丘上の農村と段丘の下の農村では,伊那市中心部への交通の便の相違,他部門の工場への雇用機会の相違などのために農家の主婦の電子部品工場への吸引のされ方に相違があることなどが明らかとなった.