抄録
本研究では、集約的な管理が行われた高齢複層林において植栽木が健全に生育可能であるかを明らかにするため、愛媛県の久万地方のスギ長期複層林試験地 (上層木100年生以上、中層木と下層木が30~52年生) を対象として最近16年間の植栽木の成長経過を調べた。上層木と中層木の直径成長速度は、0.80 cm/年以上で同齢の単層林と同程度かそれ以上に良好であった一方、下層木では0.25 cm/年と低かった。樹高成長については中層木が0.50 m/年以上を示したものの、上層木では0.13m/年と頭打ち傾向であり、下層木でも0.22 m/年と低い水準であった。形状比は、上層木が概ね60以下であったのに対し、中層木では中央値が70~120の範囲に含まれ、特に下層木では中央値が100を超えていた。本研究の複層林は、長年にわたる密度管理により、上層木だけでなく中層木においても植栽木の成長が概ね健全な状態に保たれている数少ない事例といえる。しかし、形状比を考慮すると中層木の一部と下層木では気象害リスクが懸念される状態である上、下層木の成長速度が低いままで推移しており、集約的な管理をした複層林においても下層木を長期に健全に維持することは困難であることが示された。