地理学評論
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シンガポール・ジュロンエ業団地の民族集団
太田 勇
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1976 年 49 巻 12 号 p. 765-779

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抄録

近代工業の発展が,相互に接触の少なかった民族集団にどのような影響を与えるかを,シンガポールのジュロンエ業団地の調査を通じて考察した.大規模な公営住宅を付設する工業団地の造成は,新しい形の職・住近接を生み,これが異民族相互の接触の度合いを強めている.低所得者用賃貸住宅の出現はとくにその効果を大きくした.新しい住宅政策の採用,ならびに古い社会組織に依存しない外資系工業の増加は,従来の民族集団の枠を徐々に取り除きつつある.この動向は住民側の自発的要求に基づくのでなく,各民族の伝統的行動様式を変えさせる外圧としての近代工業の発展に負い,まだ各民族間に深い交わりを生んだととを意味しない.しかし華人中心とはいえ,共通語(とくに英語)の普及,中産階級の台頭が新しい社会の成長を促していること,それを支えるのがジュロン工業団地の住民であることはまちがいない.

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