地表から地下水面に至る土壌水の移動機構を明らかにするために,比較的地下水面の浅い場合を想定したカラムによる浸透実験を行なった。そして,降雨発生にともなう土壌水の挙動および土壌の保水形態と水の運動形態の関係を論じた.本研究で得られた結論を要約すると,以下のようになる.
(1) ぬれ前線が懸垂水帯を降下して,不飽和毛管水帯の上端,すなわち毛管上昇の上限の位置に到達すると,毛管水帯では土壌水の一斉移動が始まり,地下水面を通過するフラックスが生ずる.この現象は,毛管水帯における毛管力と重力の圧力平衡の崩壊に起因するものである.
(2) 懸垂水帯におけるぬれ前線の降下速度は,土壌の種類によるよりも降雨強度に大きく依存する.そのため,同じ降雨強度に対しては,降雨開始後,地下水面を通過する土壌水の移動が始まるまでの時間は,毛管上昇高の小さな粗粒土壌よりも毛管上昇高の大きな細粒土壌で短い.この理由は, (1) で述べた土壌水の移動機構によって説明できる.
(3) 懸垂水帯と毛管水帯では,土壌の保水形態の相違にもとついて,土壌水の運動形態が異なる.懸垂水帯においては,土粒子間の接合部に保持される水に,毛管水帯では,土粒子間の間隙を満たす水によらて,土壌水の運動形態は支配される.そのため,降雨浸透過程では (1) で述べたように,前者ではぬれ前線が降下する運動形態を,後者ではすべての場所で一斉に移動を開始する運動形態をとる.