地理学評論 Ser. A
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戦国期における伊勢信仰の浸透とその背景
越後国蒲原郡出雲田荘を事例として
舩杉 力修
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1997 年 70 巻 8 号 p. 491-511

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抄録

本研究では,伊勢信仰の浸透の過程とその背景について,戦国期に伊勢信仰が浸透した越後国を事例として明らかにした.伊勢信仰の布教の担い手は神宮門前に居住する御師であったが,外宮御師北家の場合,道者の開拓は北家自身ではなく,道者の権利を売却した釜屋によって行われた.戦国期め道者開拓には,商人層も関わっていたことが指摘できた.次に,北家の1560 (永禄3)年の道者売券に見られる越後国88力村のうち,蒲原郡出雲田荘における道者の存在形態について検討した.その結果,伊勢信仰は,戦国期に新たに生まれた村を対象とし,村の開発者を道者として獲得して拡大したことがわかった.さらに,伊勢信仰の信仰拠点とされる神明社との関わりを見ると,神明社は近世の新田村に分布していることが判明した.また,道者が成立した村の生産基盤について見ると,村の主要な産物は麻の原料である青苧で,その交易の中心の担い手は,伊勢御師を出自とする蔵田五郎左衛門であったことから,商業的性格を持っ伊勢御師が,村と交易路との仲介の一端を担っていた可能性が指摘できた.つまり,戦国期における越後国への伊勢信仰の浸透は,社会・経済的な側面と密接に関わる現象であったといえる.

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