地理学評論 Ser. A
Online ISSN : 2185-1735
Print ISSN : 0016-7444
ISSN-L : 0016-7444
近世大和国吉野川上流域における「由緒」と自立的中世山村像の展開
米家 泰作
著者情報
キーワード: 山村, 近世, 由緒, 諸役免許, 吉野郡
ジャーナル フリー

1998 年 71 巻 7 号 p. 481-504

詳細
抄録
近世日本の山村は,幕藩体制に対して,山村の特質を踏まえた独自の論理を主張することがあった.その一例として,民俗学・文化地理学が指摘したような「自立的」な中世山村像を嘆願の論理として活用した近世大和国吉野川上流域の事例を検討する.18世紀の当該地域では,中世期に自立的な政治体制があったことを措定し,その「由緒」を主張することによって「諸役免許」特権の「回復」を嘆願する動きが見られた.嘆願活動はたびたび繰り返されたものの,結果としては失敗に終わった.しかし,村落結合を通じて,「諸役免許」が吉野郡という「郡の由緒」であり,それが中世に由来するものとする論理が,共有化されることになった.この論理を支える中世期の地域像は, 18~19世紀に盛んに作成・筆写された由緒書・旧記に,より詳しく描かれていく.そこでは金峰山寺・南朝と吉野郡との関わりが主題となりながらも,かつて金峰山寺領であった事実は記されていない.むしろ,無税にして武力を誇る政治体制が強調され,それが「由緒」としての「諸役免許」を説明する文脈となっていた.
著者関連情報
© 公益社団法人 日本地理学会
次の記事
feedback
Top