Geographical review of Japan, Series B
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日本的景観のコード
位相地理学への試み
水津 一朗
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1984 年 57 巻 1 号 p. 1-21

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抄録

景観の各レベルの分節には,〈素材∈形態素⊂構成要素〉,〈構成要素⊂景観の部分〉の関係がみられる.「地域」とは,かかる関係をもつ景観の各分節を地と図とするとともに,各分節を改変し,再編成する身体的行動の軌跡が,重層する場所のまとまりと考えられる.そこでまず,景観を生地とする「地域」にひそむ言語との構造的対応が明らかにされる.
さて日本には古来,一種の時空連続体としての「間」の考え方があった.「間」は,空間と時間とともに,さらにそこにおかれた事物相互の間柄をも含む流動的な概念である.さまざまな行動が,具象的な形をとって「間」の中に現実化すると考えられた.したがって,日本に特有の形態素群で構成された景観の各分節を地と図とする行動 (parole) を規定してきた伝統的なコード(langue) の中には,「間」に独特の構造を付与するものがあると推定される.
本稿の目的は,日本における歴史地理学研究の成果を踏まえて,そのコードの存在を検証し,かつそれらの特性を比較地理学的に解明するとともに,それらがユークリッド空間を包む位相空間と対応する側面のあることを探り,さらに具体的に,景観の形態発生を位相数学の分岐理論に即して説明することである.あわせて,「地域」一般のトポロジカルな深層構造の一端をも明らかにしたい.

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