Geographical review of Japan, Series B
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市町村の境界紛争
田辺 裕
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1984 年 57 巻 1 号 p. 22-42

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抄録

日本における市町村の境界は,近代的市町村制度が成立する以前から存在していたことを前提としている.したがって,いわゆる境界紛争は既存の境界が不分明になっているから起ることとなり,その解決は原則として確認行為によって求められるのであって,創設行為によることはない.しかし現実には,特に近年における工業化にともなう埋立地の拡大によって,既存の境界自体の確認はきわめて困難になってきている.本稿では,大牟田市と荒尾市との埋立地における紛争を,先行境界・追認境界・上置境界の三つの観点から双方の主張を分析することによって,解決する糸口を見出すとともに,日本の行政領域や境界の考え方の特質を明かにすることを試みた.先行境界については,武家諸法度にさかのぼって漁業法にも規定された漁場の占有権の水上境界が,三井砿山などの埋立によって消滅しながらも,なお現在に残っていることを,歴史的にあとずけ,また両市の主張の根拠ともなっている地図類を推計学的に考察し,追認境界については,現地調査によって実質的な両市の支配圏をもとめて,現実に存在する境界と両市の主張線とを対比した.上置境界については,水上境界の一般形態である等距離線(向い線)の特殊形態である地上境界の末端としての海岸線における垂線(隣り線)を幾何学的に求めて,これと両主張線とを比較した.このようにして得た地理学的境界は大牟田市に有利なものとなったが,そのことによって,むしろ両市の妥協を見ることが出来た.両市の理事者の政治的判断を評価するとともに,地理学の一つの応用事例としても,興味深い結論となった.

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