抄録
医学地理学にはいくつかの分野があるが,本研究は,地域医療に関する地理学的研究である.
ここでは,ハワイ州オアフ島住民のさまざまな医療行動のなかで,入院患者(Hawaii Medical Service AssociationおよびMedicaidの加入者)がどのように特定病院を選択しているかということを明らかにしようとした.そのために,患者とその主治医の結びつきが明確にされているデータを用い,主として計量的手法による分析をおこなった.その結果,入院患者が病院を選択する基準は,従来言われてきた医療機関までの時間距離より,むしろ病気の特性と医師のエスニシティ(民族集団への所属)が重要な要因であることがわかった。この事実をアメリカ医療制度をふまえて検討すると,病院選択に際して,患者よりむしろ医師が決定権をにぎっている傾向がみられることになる。特定の病院への選好が強い医師の判断が住民の一連の入院施設の選択行動において重要な意味を持つのである。従って,今後の研究課題として,患者と医師の種々の関係を具体的な事例に基いて分析することにより,医師の役割の特性をより明確にすることができるであろう。