Geographical review of Japan, Series B
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東京低地における自然災害と対策
松田 磐余
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1990 年 63 巻 1 号 p. 108-119

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抄録

東京低地は,低平でかつ軟弱地盤が厚く堆積している。この低地の土地利用は,江戸時代までは隅田川沿いに市街地が立地していた他は,農業に利用され,そこでは水害はある程度許容されていた。明治時代以降の工業化は,水害を許容できない土地利用を展開し,荒川放水路の建設を促した。また,地下水の過剰揚水により,地盤沈下を発生させ,0メートル地帯を誕生させた。 0メートル地帯は,現在68km2に達している。災害に対して脆弱な条件を元来持っていたうえに,0メートル地帯の発生は,東京低地における災害対策を一層困難にした。
東京に大被害をもたらした地震には,直下地震とプレート境界に発生する大規模な地震がある。前者の例は安政江戸地震 (1855年)で,後者の例は関東地震 (1923年)である。関東地震では同時に多発した火災による被害が著しかったので,現在の地震対策では火災対策が重要視されることになった。水害には,大河川の氾濫,高潮,内水氾濫,がある。さらに,地震による堤防の決壊などにより惹起される水害も予想される。
東京都では災害対策を,長期的な都市計画や環境整備計画に取り込みながら進めてきた。なかでも代表的なのは江東デルタ地帯での取り組みである。地震に対しては6つの防災拠点が計画され,白髭東地区では完成し,他の地区でも事業が着手されている。防災拠点では,避難地としての機能が備えられる上に,日常生活でも良好な環境が整備され,災害に対して備えをもったコミュニティの育成が行われている。水害に対しては,外郭堤防や,排水機場の建設が行われると共に,内部河川の改修が進められている。不要な河川は埋め立てられたり暗渠化されて,オープンスペースとして活用されているし,有用な河川の両岸には耐震護岸が建設されている。
自然災害への脆弱性は,土地自然に求められやすいが,土地利用や災害対策と深い関わりを持つことは言うまでもない。本論では,東京低地の自然的条件,土地利用の展開,自然災害,災害対策の歴史を概観しながら,前の時代に行われた自然の改変や土地利用が,次の時代の都市改良や災害対策の初期条件となっていく過程を明らかにした。

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