2003 年 76 巻 2 号 p. 59-80
本稿では,関東地方における介護保険サービスの地域的偏在を統計データの分析から検証し,その形成要因に想定されるサービス事業者の参入行動を考察した.その結果,介護保険が企図する営利企業の参入は,それが容易な福祉系訪問型サービスの中でも,介護職員の巡回移動との関連で採算確保が期待できる都市部に集中し,同サービスが大都市に偏在する要因になっていた.他方,山間部の小規模町村には社会福祉法人でさえ参入が消極的で,公益性の高い社会福祉協議会が福祉系の訪問型・通所型サービスを中心に提供事業を担っていた.しかし,社会福祉協議会も採算性重視の事業を強いられており,事業者競争や経営合理化に長けた医療機関の中には,事業の安定化を目的に福祉と医療の事業複合体を形成する事例が関東地方東部に多数確認された.それらの結果は,介護保険の下,サービス提供事業に採算性が重視されている状況を裏付けるものであろう.ゆえに,サービス事業の経営を地域の諸条件と関連付けて詳細に分析することが,介護システムの今後を占うために必要とされる.