本研究は,宮城県田尻町における水稲の減農薬・減化学肥料栽培を事例に環境保全型稲作の存続システムを解明するため,環境負荷軽減の実態に着目した.そしてそれが,水田の多面的機能の一つである生物の保全機能とそれを支える農家の農業経営に与える影響を考察した.その結果,環境保全型稲作が存続する基盤となっているのは,土作りによる環境負荷軽減のシステムと農業経営の安定であった.田尻町では,個々の農業経営で排出される有機物を有効利用することで環境負荷の軽減を図っており,それが水田生物の保全に好影響を与えていた.さらに,環境保全型稲作に取り組む農家が経営的に成り立っているため,継続的に活動を行うことが可能であった.これらの存続基盤は,環境保全型稲作に取り組む組織の支援,個々の農家の意思決定,そして田尻町の豊かな農業資源に支えられていた.つまり,田尻町の環境保全型稲作は,自然的,人的,経済的な多元的要素が有機的に関連し,環境保全と農業経営を均衡に保っていた.そしてこれらが互いに補完的作用を持ち,その存続システムを形成していた.
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