地理学評論
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ルーヴルのピラミッド論争にみる現代フランスの景観理念
荒又 美陽
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2003 年 76 巻 6 号 p. 435-449

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抄録

本稿は,現代パリの景観が形成され,受容される背後にある理念をとらえることを目的としている.ルーヴル美術館のガラスのピラミッドは,激しい論争を経て完成した.この景観が,さまざまな思想の交錯の中でコンセンサスを得ていく過程を分析することにより,パリにおける景観形成の特質を明らかにし得る.ここでは,景観の象徴性と調和をめぐる議論について分析した.結果として,論争にはある種の排他性がつきまとっており,新景観には「フランス文化」を侵害しないものであることが理念的に求められていたことが明らかになった.これは,1980年代のフランスが,世界におけるプレゼンスの低下を強く意識していたことを反映するものといえよう.論争の中で,賛否双方は,既存の「フランス文化」に多くを参照しつつ議論を繰り広げた.ガラスのピラミッドは,論争を通じ,まさにフランスの景観として読み込まれることによって受容されたのである.

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