抄録
花を形作る遺伝子が花を獲得する以前の植物でどのような役割を担っているかを明らかにすることは、花の進化を理解する上で重要である。花の形成に必須であるMADS-box遺伝子は花のないシダ植物やコケ植物でも発現していることが報告されているが、その機能は明らかとなっていない。我々は、遺伝子ターゲティングが容易なヒメツリガネゴケを用いて、コケ植物におけるMADS-box 遺伝子の機能を解き明かすことを目的として研究を進めている。
セン類のヒメツリガネゴケは6つのMIKCc型MADS-box遺伝子を持つ。各遺伝子の終止コドンの直前にGUS遺伝子を挿入した系統を作出し、レポーター融合遺伝子の発現を調べた。その結果、各遺伝子は異なる発現様式を示し、原糸体、茎葉体、仮根、造精器、造卵器、胞子体など、様々な組織での発現が観察された。各遺伝子の破壊株において野生株との顕著な違いは検出されなかったが、PPM1、PPM2、PpMADS1を破壊した三重遺伝子破壊株を作出したところ、胞子体を形成する茎葉体の数が減少していた。このことからヒメツリガネゴケMADS-box遺伝子は生殖および胞子体形成に関与していると考えられる。現在、残りの3つの遺伝子(PpMADS5、PpMADS6、PpMADS-S)も同時に破壊した多重遺伝子破壊株を作出中であり、これらの解析結果と併せて報告する。