宝石学会(日本)講演会要旨
平成15年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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天然?型ダイヤモンドのカソードルミネッセンス(CL)スペクトルの熱処理による変化
*神田 久生渡邊 賢司
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抄録

天然II型ダイヤモンドのカソードルミネッセンス(CL)スペクトルを測定すると、250nm-300nmの波長範囲に、2BD(F), 2BD(G)と呼ばれる発光ピークがみられることが知られているが、このダイヤモンドを6万気圧、2000℃で熱処理すると、これら発光の強度が小さくなった。この結果は、2BD(F), 2BD(G)の発光強度を調べることも、天然II型ダイヤモンドの熱処理の有無の鑑別法の一つとなることを示唆する。
1999年に、ブラウンカラーの天然ダイヤモンドを熱処理することによって、カラーグレードを向上させるという技術が発表され、II型のブラウンは色が淡くなり、I型は黄緑色に変わるということが知られてきた。これに関係して、その色変化のメカニズムや熱処理の有無の鑑別方法の問題は、多くの宝石関係者の興味を引きつけている。
これらの課題について、いくつか論文も発表されており、明らかになった点もある[1]。
1)熱処理で色変化するブラウンカラーの石は、塑性変形を受けている。
2)塑性変形に関連する欠陥の発光が認められる。
3)Ia型のブラウンは熱処理によって凝集した不純物窒素の一部が分解してIb成分があらわれる。これは、つぎのようなスペクトルに反映される。
a)赤外吸収スペクトルで1344cm-1ピークが現れる。
b)H2吸収ピーク(986 nm )が現れる。
c)フォトルミネッセンスピーク比が634/575nm >1 となる。
など。
これらのデータを用いると、ダイヤモンドの熱処理の有無を鑑別することが可能であるが、すべてのダイヤモンドに適用できるわけではない。特にII型結晶については、鑑別困難なこともある。
本研究では、次の実験を行った。天然ダイヤモンド原石のエッジを研磨し、その断面のカソードルミネッセンス(CL)スペクトルの測定を行った。カソードルミネッセンス(CL)とは、電子線を試料に照射して発生する発光のことであるが、本実験では、走査型電子顕微鏡(SEM)に分光器を接続した装置を用いて発光を測定した。測定では、特に300nm以下の波長に注目した。
II型ダイヤモンドからは、自由励起子ピーク(235nm、242nm、250nm)が観測される。今回測定した天然ダイヤモンドからはこの励起子ピーク以外に、250-300nmの間に、微小のピーク群が観測された。これらのピークは2種類に分けられ、それぞれ2BD(F), 2BD(G)と呼ばれている。
この試料を、超高圧発生装置を用いて、6万気圧、2000℃で熱処理した。熱処理後の試料の同一場所のCLスペクトルを測定すると、スペクトルに変化が見られた。つまり、2BD(F), 2BD(G)のピーク強度が励起子ピークに比べて小さくなっていた。特に2BD(G)は消失していた。
この2BD(F), 2BD(G)については、ほとんど研究がなく、どのような欠陥に起因する発光かまだあきらかでない。今までの研究結果から類推すると、2BD(F), 2BD(G)ピークも低温での塑性変形によって生じる不安定な欠陥による発光と考えられる。
以上の結果から、2BD(F), 2BD(G)の強度測定を行うことで、天然II型の熱処理の有無の鑑別に利用できることが期待される。なお、フォトルミネッセンス測定の論文[2]にも、250-300nmの発光が熱処理によって消滅すると記載されているが、これも2BD(F), 2BD(G)の変化と思われる。

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