宝石学会(日本)講演会要旨
平成17年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
セッションID: 8
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鉛ガラス含浸ルビーの現状と今後
古屋 正司
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抄録


 1970年代初め頃、タイの加工業者がリュックを背にスリランカに入り、地元のスリランカ人が捨てていたギューダをただ同然の値段で買い入れた。バンコクに持ち帰り、加熱して美しいコーンフラワー色のブルーTファイアに仕上げ、世界中に販売してきた。
 それから35年、天然素材がどんどん少なくなっていく中で昔のようなカット、研磨以外に人の手が何も加わっていないとされる石は市場から消えてしまった。たとえ鑑別結果がN.N.(ナチュラル・ナチュラル)になったとしても、それらには“加熱の徴候が見られない石である”というコメントが載っている。それだけ天然界の美しい宝石は数が少なくなっているのが現状である。
 昨年末頃から日本市場に大きくて美しく、大変安価なルビーが急激に入ってきている。それらを蛍光X線分析装置で成分分析した結果、今までには無かった“鉛”が検出された。全てがファセット・カットされた良質なルビーで、3~5ctの大きさが中心だが、当研究所に鑑別依頼のあった中には13.83 cts というルビーでは考えられない程の大きなサイズもあった。
 実はこの鉛含浸加工は、騒がれ出した昨年に始まったことではない。ダイヤモンドにおいては1987年頃イスラエルで急激に広まり、加工業者の名前から“Koss処理”又は“Yehuda処理”と呼ばれて取り引きされてきた。昨年末に当研究所でも大変美しいこのYehuda処理されたダイヤモンドを購入する事が出来た。イスラエル政府を通して、消費国が何度か製造をストップするよう要望したが、いまだに出回っていることを見ると、ダイヤモンドにおいて非常に有効な加工方法であるのではないかと思われる。ダイヤモンドに有効であるならば、ルビーなど他の宝石にも同じ加工が施され流通するのは当然のことであろう。
 鉛は330℃位の低温で簡単に溶ける。このコランダムの加熱加工は1250℃前後の温度で行われているために、鉛はクラックやクリベージに容易に入り込んでいく。加熱温度が低いためスター・ルビーには大変有効な加工技術である。コランダムの加熱加工には1850℃まで温度を上げる技法もあるが、それらとは違って安いコストで加工でき、しかも宝石内部に変化を生じる事が無く美しく仕上がるために、鑑別には大変知識が必要である。
 そこで、これらの鉛ガラス含浸ルビーの鑑別方法について、またこれらの宝石を日本市場ではどのように受け止め対処していくのか、他のコランダムの加熱との比較をしながら発表する。

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