宝石学会(日本)講演会要旨
平成17年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
セッションID: 6
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加熱コランダムの鑑別
*北脇 裕士アブドレイム アヒマディジャン岡野 誠
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抄録


 昨年9月の鑑別表記ルール改定に伴い、AGL(宝石鑑別団体協議会)ではコランダムの加熱について個別表示するようになった。一部では鑑別機関によって(特に海外のラボとの間で)は加熱・非加熱に関して異なる結果表示がなされるとの指摘が聞かれる。このような背景について考察し、加熱・非加熱の鑑別法について紹介する。
 加熱されたコランダムの鑑別には詳細な内部特徴の観察が重要となる。多くの結晶インクルージョンはコランダムより低い融点のため、加熱により融解したり、変色したりする。また、液体インクルージョンは癒着し、加熱に使用される触媒等がフラクチャーに残留物として見られることがある。また、加熱により紫外-可視領域、赤外領域の分光スペクトルに変化が見られる。還元雰囲気で加熱されたブルー・サファイアには非加熱の状態にはなかったOHに起因する吸収が加熱後に出現する。同様に加熱されたMong Hsu産ルビーには構造的に結合したOHの吸収が表れる。レーザー・トモグラフィでは加熱によるディスロケーションの発達や蛍光色の変化を鋭敏に捉えることができ、加熱・非加熱の判断には極めて有効である。
 また、合成ルビーも加熱されることがあり、特に内部特徴が変化することから鑑別上注意を要する。1990年代初頭、ベトナム産ルビーの市場への登場と同時期に大量の加熱されたベルヌイ法合成ルビーが市場に投入された。1990年代半ばには加熱されたカシャン合成ルビーが出現した。これらは得てして大粒の結晶で国際的な知名度のある鑑別ラボでも誤鑑別が生じるなど看破の難しさが問題となった。最近ではラモラ・ルビーの特徴を有する合成ルビーが加熱されており、ルビー鑑別に新たな問題を提議している。ラモラ(RamauraTM)は1983年に販売が開始されたフラックス法の合成ルビーである。販売当初は天然との識別が困難であるため、メーカー側がラモラの指標になるようにあえて合成時に希土類元素を添加したと言われている。今年になってこの識別困難なラモラ・ルビーが加熱され、さらに鑑別が難しくなったものを見かけるようになった。拡大検査において融解したオレンジ・フラックスが観察されれば、加熱されたラモラ・ルビーの識別特徴になるが、微小インクルージョン、色むら、成長線などは天然ルビーに酷似しているため注意が必要である。

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