抄録
宝石サンゴと真珠は、生物が作る鉱物であるが、その美しさと安定性から、宝石として世界各地で古くより珍重されている。高知沖は宝石サンゴの世界的な産地として有名である。また、真珠養殖法の開発に関して日本は大きな貢献があった。
宝石サンゴは、花虫綱八放サンゴ亜綱に属して八放サンゴ類とも呼ばれ、造礁サンゴ類とは亜綱のレベルで異なった分類群である。地中海に分布するベニサンゴ (Corallium rubrum)は宝石サンゴとして古くから有名であり、日本周辺からはアカサンゴ(Corallium japonicum)、シロサンゴ(C. elatius)、モモイロサンゴ(C. konojoi)などが産する。骨軸と呼ばれる炭酸カルシウム骨格は、高マグネシウム方解石からなる。数十年、数百年の年月をかけて形成される宝石サンゴの骨格には、各種の同位体比や化学組成の変化として深海の環境変動の記録が残されている可能性があり、気候変動史の研究者の注目を集めている。高知沖から採取されたシロサンゴについての、酸素・炭素安定同位体比および各種元素濃度の結果を報告する。
真珠は、貝殻内部に入り込んだ不純物に対する貝の防衛反応により形成される。そのため、多くの貝が真珠を形成する機能を有するが、現在、一般的に真珠養殖の母貝として使用されるのは、商品価値のある宝石真珠を形成する二枚貝である。例を挙げると海生のアコヤガイ(Pinctada martensii)、クロチョウガイ(Pinctada margaritifera)、シロチョウガイ(Pinctada maxima)、そして淡水棲のイケチョウガイ(Hyriopsis schlegeli)などがある。この中で、クロチョウガイは黒色の黒蝶真珠を形成する。イケチョウガイは、緑系や赤系、灰色系など様々な色合いを持つ。アコヤガイとその真珠については比較的多くの研究が行われているが、その他についての研究例は極めて乏しい。石垣島・西表島で養殖されたクロチョウガイとその真珠や、志摩半島で養殖されたアコヤガイとその真珠 (Kawahata et al., 2006)、また、淡水の新利根川で養殖されたイケチョウガイとその真珠について(Yoshimura et al., 2000; Izumida et al., in press)、酸素・炭素安定同位体比および各種元素濃度を分析することにより、貝殻と真珠の形成が活発な時期や形成が停滞する時期が判明した。また、環境要素や生活史が与える影響についても報告する。
生物が宝石サンゴや真珠などの鉱物を作る現象はバイオミネラリゼーション(生物鉱化作用)と呼ばれている。生物起源炭酸塩を構成する代表的な鉱物は方解石とアラレ石で、通常、海洋の石灰化生物は上記の2種の鉱物のいずれかを分泌するが、例えば、アワビ類の場合には、両者の混合層を持った殻を作ることもある。石灰化機構は普通に思われているよりずっと変化に富んでいて、まだ十分に知られていない重要なプロセスが関与している可能性もある。現在、海洋酸性化に対する石灰化生物の実験研究、生物起源炭酸塩を用いた気候変動解析をはじめ,分子レベルから地球環境スケールの広範な研究分野に関係して、生物鉱化作用の研究は世界的にも注目されるトピックスである。
謝辞:(株)明恒パール牛久観光・北尾正一氏ならびに(株)琉球真珠・中野氏には、貴重な分析試料を提供して頂きました。本研究は、次の方々との共同研究の成果を紹介しています。記して御礼申し上げます。東京大学大気海洋研究所・川幡穂高教授、横山祐典准教授、井上麻夕里助教、吉村寿紘氏、牛江裕行氏、立正大学・岩崎 望教授、慶応義塾大学・鹿園直建教授、泉田悠久氏、田子裕子氏、古田望美氏、産業技術総合研究所・中島 礼博士、長尾正之博士。