宝石学会(日本)講演会要旨
平成24年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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平成24年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
ルミネッセンス像による天然及び合成ダイヤモンドの鑑別
*久永 美生北脇 裕士山本 正博
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p. 12-

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抄録

1990年代に入って、合成ダイヤモンドが宝石市場に流通するようになり、業界関係者にもその存在は広く知られるようになった。これらの多くは高温高圧(HPHT)法で合成された1ct未満の黄色ダイヤモンドであったが、その後の技術革新により、青色、ピンク色、緑色及び無色等の高品質の高圧法合成ダイヤモンドが製造されるに至っている。2003年8月に米国、Boston, MassachusettsのApollo Diamond inc.がCVD法で合成したダイヤモンドを宝飾用に販売する計画を明らかにして以降、宝石業界においてもCVD合成ダイヤモンドが注視されるようになり、宝石学の文献にも登場するようになった。2007年以降、国際的な宝石鑑別ラボの鑑別およびグレーディング実務に供せられたCVD合成ダイヤモンドの報告が散見されるようになり、2010年11月には高圧法合成ダイヤモンドの製造で知られているFlorida のGemesis Corp.が宝飾用CVD合成ダイヤモンドの販売計画を公表している。
宝石ダイヤモンドを研究対象とする場合、すでにカット・研磨が施されており、表面特徴の観察は期待できない。従って、宝石ダイヤモンドの成長履歴を読み取り、逆に成長条件を推定するためには、結晶内部に残された不均一性を検知する必要がある。ダイヤモンドを始めとする天然の結晶は、一定の速度や一定の条件下で成長するわけではない。形成過程においては、成長速度あるいは成長条件が緩やかにあるいは急激に変化し、部分的な溶解・再成長が生じることがある。そのため、欠陥密度や不純物分配が変化し、包有物、格子欠陥(点状欠陥、転位、面状欠陥)、成長縞(累帯構造)、成長分域などが形成される。このようなダイヤモンド内部の不均一性はさまざまな方法を用いて研究されてきたが、宝石ダイヤモンドの鑑別にはカソードルミネッセンス(CL)法や紫外線ルミネッセンス像が有効である。
本研究では、グレーディングに供された1万個以上の天然ダイヤモンド及び250個以上の合成ダイヤモンドについて、主としてDTC 製DiamondViewTMによる紫外線ルミネッセンス像の観察結果を纏めた。
天然ダイヤモンドの結晶のモルフォロジーの基本は、PBC(Periodic Bond Chain)解析法で導き出されるように、{111}で囲まれた八面体で、条線模様としての{110}を伴うが、{100}は結晶面上に現れない。これに対して、金属溶媒を用いて高温高圧下で合成したダイヤモンドの結晶は、{111}面のみならず、{100}面も良く発達した六・八面体の結晶形をとるのが一般的で、金属溶媒の種類や温度によっては、{110}や{113}面を伴うことがある。また、天然ダイヤモンドでは、{100}面は常にラフな面として振る舞い、スムースな界面として振舞うのは{111}面のみである。しかし、高温高圧法合成ダイヤモンドでは、{100}面は{111}面と共に常にスムースな結晶面として振る舞い、渦巻き成長機構による結晶成長が行われている。CVD法において宝飾用の単結晶を育成するためには高速度成長が不可欠である。一般に高速(10μm/h)以上で成長させると、成長丘と呼ばれる異常成長が起こる。これを防ぐために{100}基板上にエピタキシャル成長をさせている。また、窒素を添加することで高速度の成長が得られ、成長丘の発生が抑制されて長時間成長が可能となる。しかし、窒素の添加量が多くなると、“step bunching”と呼ばれる線状の表面荒れが出現する。このstep bunchingは窒素の含有量が多くなると直線ではなくなり乱れた形状となるようである。

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