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緒言: MgAl2O4 は Mg2+の 4 配位サイトと Al3+の 6 配位サイトを有しており、種々の遷移金属イオンが不純物として置換することで様々な色に発色する。中でも Co2+が不純物として Mg サイトを置換した場合、美しい青色に発色する。その発色原因は、吸収スペクトルの 15,000cm-1 から 20,000cm-1 にかけて現れる強い吸収であるとされており、発色と遷移金属イオンの吸収スペクトルの間には密接な関係がある。そのため、宝石の性質の調査において吸収スペクトルの理論的な解析は非常に重要であるといえる。しかし、 Co2+のような系では多電子系の取り扱いが必要となるため、第一原理による理論的なアプローチはほとんどなされていない。本研究では、 MgAl2O4 中の Co2+において、吸収スペクトルの再現および解析を目的として、多電子系の扱いが可能な、配置間相互作用法に基づく DVME 法[1]によって多重項エネルギーおよび振動子強度を計算し、理論吸収スペクトルを求めた。
計算手法: MgAl2O4 の結晶構造データ[2]から4 配位サイトの Mg2+に置換した Co2+と第一近接酸素からなる 5 原子モデルクラスターを構築し、 DVME 法によって、 Co2+の多重項エネルギーの第一原理計算を行い、吸収スペクトルを求めた。計算の際には、モデルクラスターの周囲の原子位置には点電荷を配置し、有効マーデルングポテンシャルを考慮した。配置依存補正及び電子相関補正である CDC-CC を考慮した場合、していない場合について計算を行った。
また、相対論 DVME 法を用いて、相対論効果を考慮した計算も行った。
結果: 計算によって得られた理論吸収スペクトルと報告されている吸収スペクトル[3]を Fig. 1 に示す。 4A2(e4,t23)→4T1(e2,t25) と 4A2(e4,t23)→4T1(e3,t24) に帰属される 2 つのピーク及びその強度比を再現することに成功した。 4T1(e3,t24) の多重項エネルギーの過大評価については、今回の計算において、結晶場の強さが過大評価されているためと考えられる。