宝石学会(日本)講演会要旨
平成29年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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平成29年度 宝石学会(日本) 一般講演要旨
LIBS を用いたワックス加工の痕跡の検出
*福田 千紘
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p. 14

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抄録

ジェイダイトやトルコ石は AGL の宝石もしくは装飾用に供される物質の定義および命名法に関する規定でコメントが定められている。この中で樹脂含浸の痕跡が認められない物に対しては”通常、 光沢の改善を目的としたワックス加工が行われています”というコメントを付記することになっている。またジェイダイトに関しては特殊検査を行った上で分析報告書にてワックス加工の痕跡が認められない旨の記載も可能となっている。半透明~不透明な宝石は光沢の改善のため普遍的にワックスによる艶出しを施されている可能性があるが一部の宝石種を除いては直接的に加工の痕跡を検出することは困難である。

ジェイダイトに関しては 2800-3000cm-1 付近にワックス類を起源とする C-H 振動の吸収が現れることが知られている。 LIBS は先行研究により C や H 等の感度が良好なことが報告されており(Anzano et al.,2014) 本研究では LIBS を用いて前述の宝石種に施されたワックス加工の痕跡が検出されるかを検討した。

宝石試料を分析する前に純物質でこれらの有機物が検出可能であり種類ごとに差が出るかを検証した。含浸やワックス加工に使用されたり、表面のコーティングに使用される樹脂としてポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ロジン(松脂)を ワックスとして蜜蝋、パラフィンを準備した。先行研究とはレーザーの波長や細かなパラメーターが異なるが C, H 共に検出可能でそれぞれの素材毎に区別が可能であった。

ジェイダイトは無処理、ワックス加工、樹脂含浸の試料を、トルコ石も同様の試料を準備した。トルコ石は樹脂含浸に関して程度の異なる試料も測定を試み差が認められるか検証した。その結果、ワックス加工、樹脂含浸共に高濃度の C と H が検出されそれぞれ区別が可能であった。またトルコ石はワックス加工、樹脂含浸の試料に含有される有機物の量に比例して発光強度の増加が認められ C, H 共に相関性が認められた。

応用としてワックス加工されたジェイダイトと樹脂含浸されたジェイダイトの区別は赤外分光により可能だが枠に多量の接着剤で固定された状態では判別することが困難であった。完全な非破壊検査ではないが LIBS による有機物の検出は従来の手法で対応できない条件下での樹脂含浸の検出方法の一つとして有効と思われる。

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