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産地鑑別において光学顕微鏡により観察される宝石中のインクルージョンは、産地や処理の有無を推定する上で重要な情報を与える。しかしながら、観察は人間が行うことから、経験年数や体調の影響は避けられない。そこで、AI により光学顕微鏡像からインクルージョンを自動で検出・判別できれば、鑑別業務の効率化や鑑定士の負担軽減が期待できる。
前回、物体検出アルゴリズムの一種であるYOLO によりルビーの光学顕微鏡像を学習し、インクルージョンの自動検出・自動判別の性能について報告したが、照明条件に課題がありシルクインクルージョンや微小インクルージョンの撮影ができなかった。今回、照明や観条件を改善することで、これらのインクルージョンが撮影可能となった。ラベリングはインクルージョンの形態に従って 4 つのグループに分類した(Group 1:液体や指紋状、羽毛状など広がった形態を示すグループ, Group 2:結晶や二相など単一で閉じた形態を示すグループ, Group 3:針状およびチューブ状の細長い形態を示すグループ, Group4:シルクやシルククラウド)。
前回までに収集した画像に新たに撮影した画像を加えたおよそ 450 枚を用いて YOLO v8により学習および性能評価したところ、いずれの Group も再現率(Recall)が 65~80%、適合率(Precision)が 80~95%であった。 Group3および Group4 は他の Group と比較して画像数が少なかったが、同程度の性能が得られており詳細なインクルージョン観察の前のスクリーニングとして利用可能と考えられる。
また、画像拡張の効果についても検討したので報告する。