宝石学会(日本)講演会要旨
2026年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
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2026年度 宝石学会(日本) 特別講演要旨
国立科学博物館所蔵の宝石
*宮脇 律郎
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p. 1-2

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抄録

国立科学博物館は自然史及び科学技術史の中核的研究機関として,調査・研究,標本・資料の収集・保管・活用,展示・学習支援の事業を推進している。所蔵する 500 万点余りの標本・資料のうち,鉱物標本は 76000 点を超える。そのほとんどは鉱物の産状を保った学術標本であるが,数は限られるものの,カットされたり,ジュエリーに仕立てられたりした宝石も含まれている。

これらの宝石類は,公衆の観覧と公的継承を目的に,篤志家より寄贈されたもの,あるいは移管されたもので占められている。また,資産的価値のみならず,歴史的価値を有するという,自然史系,科学技術史系の博物館としては,特異的な標本・資料となっている。

国立科学博物館の宝石類の所蔵と展示公開は, 1960 年代の,いわゆる「日銀ダイヤ放出」に関わるダイヤモンドの移管に端を発する。太平洋戦時中,軍需用として供出させられた 161000 カラットに及ぶダイヤモンドを民間に売却するにあたり,砂川一郎,櫻井欽一,松井英一,諏訪喜久男ら十数名の宝石有識者が鑑定にあたった。その鑑定の過程で,散逸させず保存継承すべき品が見いだされ,国立科学博物館での展示および研究用に,カット,カラー,カラットなどの見本となる192 粒,総計 221.53 カラットのダイヤモンドが選別され,その大半が 3 号館 1 階(当時),その後,自然史館(4 号館,後のみどり館) 4 階の地学展示室宝石庫に展示,一般公開された。

一方,諏訪貿易株式会社の代表取締役(当時)の諏訪喜久男から,同家の家宝とされていたひすいが寄贈され,国立科学博物館の「宝石展示」に加えられた。この「とうがらし」をかたどった長さ約4cm約54カラットの深い翠色で透明度にも秀でた ひすいは,時価数千万円の中国伝来といわれ,大きな話題となった。

松井宝石事務所長(当時)の松井英一により,ペリドット,シトリン,クンツァイトなどに加え,人工水晶や世界著名ダイヤモンドの原石の模型など61点が寄贈された。松井は,多様な色彩のダイヤモンドや各種宝石の原石の収集に励み,亡くなった後,その遺志を継いだ令夫人松井てる子により,ダイヤモンド126点(合計26.97カラット),紫水晶,緑電気石原石,が当館に寄贈されている。

大阪市の鹿野正夫から,透明度もすぐれた藍色の83.17カラットのカボションのスター・サファイアが,京都の今西信一から,スリランカ産58.79カラットのカボションのキャッツアイ指輪(プラチナ台)が,それぞれ寄贈され,当館の「宝石展示」はますます充実した。さらに,東京のタツミ商店社長(当時)巽忠春から,“氷華の舞”と命名されたダイヤモンドネックレスが寄贈され,展示に加わった。 14Kホワイトゴールドに 864個のダイヤモンドを散りばめ,ペンダント,ブローチ,またティアラとして着用できるデザインで1968年度国際ダイヤモンド賞の入賞作品の一つである。

この「宝石展示」には,キンバリー岩の母岩を伴った南アフリカ,プレミア鉱山産199.8カラットのダイヤモンド原石が加わった。これは日本ダイヤモンド工業協会から特別に無期限貸与されたものである。

以上のように,常設の「宝石展示」への協賛の寄贈は相次ぎ,その拡充と共に多くの来館と観覧につながった。しかし,施設の老朽化に伴う「新館(現在の地球館)」への建て替えに際し,鉱物の展示は縮小の憂き目に遭い,常設展示の警備上の問題もあり「宝石展示」は失われてしまい,宝石の寄贈の申し出は沙汰止みとなった。

展示室から収蔵庫に撤収させられた宝石類は,「死蔵」を避けるべく,機会を見て,館内外での企画展・特別展で列品され公衆の観覧に資せられた。特に2022年の「宝石展」では,自然物である宝石の魅力を改めて発信することができ,それに呼応するように,宝石類の寄贈が再び始まった。

大色相環は,宝石の多様な色彩と光沢を一覧できるように 365石を色相別に系統的に環状に配列したもので,諏訪貿易株式会社会長の諏訪恭一により「宝石展」のために用意された。この365石を散逸させることなく国立科学博物館の所蔵として遺し,その後の展示に活用して広く観覧できるように寄贈された。

アーガイル・ライブラリー・エッグは,希少なピンク・ダイヤモンドを贅沢に使った世界最大級の宝飾品である。オーストラリア北西部のアーガイル鉱山から産出するピンク・ダイヤモンドならではの,高貴で強烈な美しさを讃えて,アーガイル・ダイヤモンド社とクチンスキー・ジュエラーズ社との連携により創られ,1990年3月に公開された。

その後,マブチモーター株式会社の創業者で日本を代表する実業家の馬渕健一が蒐集した「世界に類を見ないもの」の一つとなった。継承した馬渕喬・麗子夫妻は,この素晴らしい宝飾品が広く観覧されることを望まれ,博物館あるいは美術館に寄贈する意を固めた。歴史的宝飾品に造詣が深く,国内外の展覧会の企画と出品協力を手がけてきたアルビオンアート・ジュエリー・インスティテュートを主宰する有川一三から,寄贈先として国立科学博物館が推挙された。

アーガイル鉱山から産出したピンク・ダイヤモンドとカラーレス・ダイヤモンドを18K金にちりばめた,ロシアのインペリアル・イースターエッグの伝統に倣った高さ 70cmの卵形の宝飾品は,鉱山名と内部意匠に因んで The Argyle Library Eggと呼ばれている。ダイヤモンド総量約435カラットのうち,ピンク・ダイヤモンドは348カラット。総重量約23kgのうち約15kgに18K金が使われている。

現状,国立科学博物館が所蔵する宝石類は常設展示に未陳の状態である。返せば,他館等へ貸し出しが可能な状況でもある。一方で,より拡充して「宝石展示」を館内の常設展示に復活させることが期待される。寄贈,移管の篤志に報いるためにも,これら貴重な宝石類を「死蔵」させることなく公衆に観覧されることが望まれる。「宝石展示」を通じて宝石の魅力に触れ,自然物への興味と理解が深められることを念じつつ,「宝石展示」の復活に向け,ご賛同,ご支援をお願いする次第である。

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