1992 年 32 巻 2 号 p. 239-244
14年間の透析歴をもつ患者に発生した肺の扁平上皮癌に高度の石灰沈着が認められた.従来の報告では稀なX線所見と思われるので, そのX線像を中心に報告した.術前の高分解能CT像では腫瘍全般に石灰化像が認められ, 腫瘍中心部では殊に密な石灰化像が認められた.摘出肺の伸展固定標本のCT像および軟X線像でもこれが再現された.術前の骨シンチグラムでは, 腫瘍への集積像および腫瘍以外の肺野においてもびまん性の集積像が認められた.典型的な高カルシウム血症や副甲状腺機能亢進症は証明されなかったが, 本例の腫瘍への高度の石灰沈着, 並びに肺へのびまん性石灰沈着は慢性腎不全と長期の透析に伴う転移性石灰沈着と考えなければ説明できないと思われた.今後長期透析症例の増加に伴って類似例が増加する可能性があり, 腫瘍内での石灰化像の存在を肺癌と良性腫瘤の鑑別点とする従来のX線診断基準の適用に際して留意すべき事項と考える.