日本らい学会雑誌
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らいの免疫学研究の進歩
特に,らい患者にみられる免疫不応性の成立にかかわるサイトカインとの関連から
冨岡 治明斎藤 肇
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1995 年 64 巻 2 号 p. 69-84

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抄録
この総説はらいの免疫に関する最近の研究の状況について述べたものである。最近,多くの研究者はらい腫らい患者にみられるらい菌抗原特異的な免疫不応性という奇妙な現象に彼等の興味を集中しつつある。こうした患者の末梢血やらい病変部のTリンパ球ではらい菌抗原に対する増殖性応答能の顕著な低下がみられるが,PPDなどの他の細菌の抗原に対する応答性の低下は基本的には認められない。こうした免疫不応性の免疫学的メカニズムとしては以下の,(1) TDTH細胞におけるらい菌抗原に対するアネルギーの成立,(2) 抗原特異的Ts細胞や免疫抑制性マクロファージあるいはそれらの産生する体液性因子による能動的な意味での免疫抑制,(3) ある種のらい菌由来菌体成分によるprotective T細胞やマクロファージの細胞機能の抑制などの可能性が挙げられる。最近の研究により,Th 1細胞により産生される1型サイトカイン(IL-2,インターフェロン-γ,リンホトキシン)が,らい菌を含む抗酸菌に対する細胞性免疫の発現に重要な役割を演ずることが明らかにされている。さらに,らい腫らいにおけるらい菌抗原に対する免疫応答の低下は,部分的にはTh 2細胞の増生と活性化並びにそれらによる2型サイトカイン(IL-4, IL-6, IL-10など)の産生によるTh 1細胞依存の細胞性免疫ひいてはマクロファージの殺菌能の抑制に起因したものであることが示唆されている。以上の観点より,この総説では,らい菌抗原に対する宿主の免疫不応性成立のメカニズム,特にTh 2細胞,Ts細胞並びにサプレッサーマクロファージにより産生される免疫制御サイトカインの関与についての研究の現況を詳しく紹介した。
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