高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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原著
伝導失語に収束した新造語ジャルゴンの 1 例
─新造語発現の機序についての一考察─
船山 道隆小嶋 知幸稲葉 貴恵川島 広明
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2010 年 30 巻 3 号 p. 467-477

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抄録

左縁上回後部,上~中側頭回後部,角回の皮質下の脳出血後,初期には頻発する新造語ジャルゴンを伴うウェルニッケ失語を呈し,回復とともに伝導失語の臨床像に収束した 1 例を報告した。本症例は,目標語と無関連な新造語が頻出する初期の段階から,改善経過の中で,音韻の断片や,目標語の推測が可能な音韻性錯語の段階を経て,最終的に,音韻の置換や転置を主症状とする伝導失語の臨床像に収束した。また,この間,語性錯語・迂言など,語彙レベルの障害を示唆する症状は観察されなかった。これらの経過から,少なくとも本症例において発症初期に頻出した新造語は,出力音韻辞書 (音韻選択) のレベルの障害に起因するのではないかと考えられた。従来,新造語の出現には,語彙レベル・音韻レベル両水準の関与が指摘され,その発現機序に関してはいまだに意見の一致を見ていないが,少なくとも 1 つの可能性として,語彙以降 (post-lexical) の段階の障害においても新造語が出現しうることが示唆された。

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© 2010 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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