高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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30 巻 , 3 号
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ワークショップ I : 画像診断と臨床症状
  • 長田 乾, 高野 大樹, 山崎 貴史, 正木 久嗣, 前田 哲也, 小松 広美, 渡邊 真由美
    2010 年 30 巻 3 号 p. 367-377
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    脳虚血などにおける脳組織の病的変化は,すでに壊死に陥って形態的な変化をきたした形態的変化と,機能的には障害されているものの形態的には保たれている機能的変化の二つの視点から捉えることが出来る。病初期には脳血流量やエネルギー代謝の低下などの機能的変化が形態的変化に先行して現れるが,病態が進行するに従って徐々に形態的な変化が顕性化して,やがて機能的変化と形態的変化は収斂する。CT や MRI は専ら形態的変化を検出する場合に用いられ,PET や SPECT は機能的な脳障害の分布を捉える場合に用いられる。CT は頭蓋内病変を疑ったときに最初に行なわれるべき第一選択のスクリーニング検査である。X 線低吸収域はすでに壊死に陥った形態的変化を示しており,機能的な障害を受けた部位もこれよりも広く分布しているため,CT 上の低吸収域が病変部位のすべてを表している訳ではない。MRI は,放射線被曝がないことに加えて,軟部組織の分解能に優れ,矢状断や冠状断画像が得やすいことなど種々の点において CT を凌駕する。拡散強調画像は,超急性期の虚血病巣を鋭敏に検出することから,脳梗塞急性期の画像診断において不可欠である。拡散テンソル画像では白質線維の走行を解析することが出来る。fMRI に用いられる BOLD は,神経活動に伴う脳血流の局所的な変化を非侵襲的に捉えることから,脳賦活実験に広く応用されている。
  • 小林 哲生
    2010 年 30 巻 3 号 p. 378-386
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    高次脳機能の解明や精神疾患等の画像診断に役立つ新たなツールとして fMRI と MEG の長所を相補的にいかした統合解析によって大脳皮質の複数の部位の賦活を動的にイメージングする手法,中でも fMRI で捕捉されなかった MEG 信号源が仮に存在するといった先験情報が不十分である場合にも時系列推定誤差を低減し安定した信号源活動の推定を可能とする手法を述べる。本方法は,fMRI で捕捉されなかった相関の高い MEG 信号源の有無とは無関係に,fMRI で捕捉された賦活領域についてボクセル毎の活動時系列が高精度に推定可能であり,複数の賦活領域が同時にしかも相関が高く活動した場合においても動的イメージングが可能である。さらに,他の新たなツールとして,現在 MEG 計測に用いられている SQUID を凌ぐ超高感度光ポンピング原子磁気センサの開発とそれを用いた MRI と MEG の同時計測可能な融合システムの展望を述べる。
  • 佐藤 正之
    2010 年 30 巻 3 号 p. 387-397
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    単光子放出断層撮像法 (single photon emission computed tomography : SPECT) と陽電子放出断層撮像法 (positron emission tomography : PET) の原理と応用について,自験例を中心に述べた。SPECT は脳血流が測定でき,臨床場面で広く用いられ,神経心理学的症候や認知症を呈した患者の診断に力を発揮している。PET は脳血流と代謝の測定が可能で,より基礎的な研究に用いられ,脳賦活化実験や神経伝達機能の画像化に利用されている。近年,主にアルツハイマー病の診断に頻用される画像統計処理法は,明瞭・明快な画像を得られる反面,偽陽性・偽陰性を生み出す恐れもある。SPECT や PET の所見を活かすためには,病態の正確な把握と解釈が評価者に求められる。
  • 近藤 正樹, 渡辺 (細見) 明子
    2010 年 30 巻 3 号 p. 398-403
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    Fiber tracking (Tractography) は,MRI を用いた拡散テンソル画像の解析により,白質の線維束を描出する。この手法により神経線維の可視化や臨床的評価が可能となってきている。今回,我々の施設で行った左中大脳動脈 (MCA) 梗塞の弓状束の Tractgraphy の検討を報告した。脳梗塞急性期に弓状束の Fiber tracking を行い,fiber 数,Fractional anisotropy (FA) を算出した。弓状束 FA 値の左右比は失語の予後と相関しなかったが,弓状束 fiber 数の左右比は予後不良群で有意に少なく,失語の予後予測に寄与できると考えられた。また,functional MRI (fMRI) と Tractography を組み合わせた研究として Saur らの報告を紹介した。彼らは,健常者を対象として,fMRI によって得られた賦活部位に従って Fiber tracking を行い,復唱課題に関連した背側路,理解課題に関連した腹側路を示した。
「ワークショップ II : 嚥下障害と構音障害―病巣部位と経過―
原著
  • 平野 綾, 奥平 奈保子, 金井 日菜子, 峯下 圭子
    2010 年 30 巻 3 号 p. 418-427
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    単語の復唱・音読は良好だが呼称時のみ音韻探索が著明で,多彩な錯語を呈した流暢型失語の 1 例を報告した。症例は 69 歳,右利き女性,高校卒。左側頭─頭頂葉の脳梗塞で中重度流暢型失語を発症,会話時ほとんど錯語はなく流暢に話すが,指示代名詞の多い空虚な発話だった。呼称時の誤反応を,語彙性,意味的関連性,音韻的関連性の観点から,意味性・無関連・形式性・混合性・音韻性錯語および新造語の 6 つに分類した結果,これらすべての種類の反応が認められた。特に,音節・韻律構造といった語の「枠組み」が保たれた非単語が多数認められた点が特徴的で,これらは,語の音韻形式のうち音節・韻律情報に比べて音素情報が得にくく,回収された語の枠組みを埋めようと音素を探索する過程で表出されたと考えられた。また,形式性錯語や,複数語彙が混合したと思われる非単語が認められたことから,語選択における語彙レベルと音韻レベルの相互的な影響も示唆された。
  • 高ノ原 恭子, 栗山 長門, 近藤 正樹, 中川 正法, 長谷 斉
    2010 年 30 巻 3 号 p. 428-438
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    進行性非流暢性失語を呈した 3 例について,標準失語症検査 (SLTA) を実施し,その言語症状,画像所見,原疾患について検討した。症例 1 は臨床診断の困難な変性性疾患,症例 2 はアルツハイマー病 (AD),症例 3 は大脳皮質基底核変性症 (CBD) が示唆された。3 症例ともに発語の非流暢性が顕著であったが,呼称と文字の理解は良好であった。これらは病変が前頭葉・側頭葉変性が先行し,後方領域は遅れて障害されるという変性過程の進行に基づく特徴のひとつと考えられた。また症例 3 は,症例 1,2 と異なり病初期から書字障害を呈していた。進行性非流暢性失語には病初期に書字障害は軽微で非流暢発語を主体としたタイプと,書字障害を伴う非流暢性発語を示すタイプの 2 つが存在することが示唆された。
  • 澤田 梢, 橋本 優花里, 近藤 啓太, 丸石 正治
    2010 年 30 巻 3 号 p. 439-447
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,神経心理学的検査成績により高次脳機能障害者の就労実態を判別可能であるかどうかを検討することである。厚生労働省による高次脳機能障害診断基準に該当する高次脳機能障害者のうち就労年齢に相当する者を対象として,神経心理学的検査 (WAIS-R,RBMT,TMT-A,TMT-B) を実施した。また,就労実態について,就労群と非就労群に分類し,就労実態を基準変数として,各神経心理学的検査成績を説明変数とする判別分析を行った。その結果,標準化判別係数は,RBMT および WAIS-R の下位検査である絵画配列,類似,TMT-B の順で高いことが示され,本研究の対象者での判別的中率は,72.9 %であることが明らかになった。神経心理学的検査を詳細に検討することにより,対象者の就労支援の一助とすることが可能であると考えられた。
  • 木島 理恵子, 赤沼 順, 小野内 健司, 小嶋 知幸
    2010 年 30 巻 3 号 p. 448-457
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    初診時に左頭頂・側頭・後頭葉,再発時に右側同部位に病巣を認めたMELAS の 1 例における高次脳機能障害の経過を,書字障害を中心に報告した。症例は 35 歳右利き男性。初診時,神経心理学的には健忘失語と漢字優位の失書を認め,視覚イメージの想起障害もうかがわれた。約半年後に再発し,新たに左半側空間無視,視覚認知機能の低下,行為・構成障害が加わり,書字障害は増悪していた。漢字は写字から困難で,仮名では文字を構成する要素の回転や脱落,重なるべき複数の要素が重ならないなど特徴的な誤りを示し,図形の模写も困難であった。点結びやなぞり書きは可能で運筆の基本的機能は保たれていたが,図形を相対的に同位置に写す課題,2 点の位置の異同判断課題は低下していた。再発後のこのような障害には,(1) 同時に複数の対象に焦点をあてる能力の障害,(2) 物の向きに関する視知覚障害に加えて,(3) 内的な視空間座標の障害の関与が示唆された。
  • 太田 信子, 前島 伸一郎, 大沢 愛子, 川原田 美保, 種村 純
    2010 年 30 巻 3 号 p. 458-466
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    もの忘れ外来を受診した 56 名 (AD25 名,MCI 18 名,健常群 13 名,平均年齢 77.1 歳) を対象に,日本版 RBMT の「用件」の遅延再生課題のおける展望的記憶の障害の有無と認知症の有無との関連,および展望的記憶の障害過程を検討した。その結果,AD では存在想起・内容想起ともに障害された割合が高く,記憶,前頭葉機能,視覚情報処理などさまざまな認知機能の低下により「意図の符号化」「意図の保持」「意図の認識」「意図から遂行内容の想起」の過程が障害され, MCI でも存在想起・内容想起とも障害され,記憶,前頭葉機能の低下により「意図の符号化」「意図の認識」「意図から遂行内容の想起」の過程が障害された。健常群でも存在想起のみが障害され,前頭葉機能の低下により「意図の認識」の過程が障害されたことから,展望的記憶の障害の割合が対象群によって異なったことは,低下した認知機能の違いによる展望的記憶の障害プロセスの違いを反映すると考えられた。
  • 船山 道隆, 小嶋 知幸, 稲葉 貴恵, 川島 広明
    2010 年 30 巻 3 号 p. 467-477
    発行日: 2010/09/30
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    左縁上回後部,上~中側頭回後部,角回の皮質下の脳出血後,初期には頻発する新造語ジャルゴンを伴うウェルニッケ失語を呈し,回復とともに伝導失語の臨床像に収束した 1 例を報告した。本症例は,目標語と無関連な新造語が頻出する初期の段階から,改善経過の中で,音韻の断片や,目標語の推測が可能な音韻性錯語の段階を経て,最終的に,音韻の置換や転置を主症状とする伝導失語の臨床像に収束した。また,この間,語性錯語・迂言など,語彙レベルの障害を示唆する症状は観察されなかった。これらの経過から,少なくとも本症例において発症初期に頻出した新造語は,出力音韻辞書 (音韻選択) のレベルの障害に起因するのではないかと考えられた。従来,新造語の出現には,語彙レベル・音韻レベル両水準の関与が指摘され,その発現機序に関してはいまだに意見の一致を見ていないが,少なくとも 1 つの可能性として,語彙以降 (post-lexical) の段階の障害においても新造語が出現しうることが示唆された。
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