症例は 68 歳女性, 右後大脳動脈領域の脳梗塞後に街並失認をきたした。基本的な視知覚機能は保たれていたが, 状況図の同定では全体把握が困難であり, 同時失認が認められた。街並の同定や描画においても, すべてが部分部分のつなぎ合わせであり, また街並を想起する際にも全体をとらえることが困難であった。街並を認知するには, 各建物とそのレイアウトを理解し, それらをまとめ上げて意味に到達することで同定に至る。本症例は右海馬傍回病変によって街並のレイアウト, context の理解という全体把握の機能が損なわれたことで, 複雑な視覚対象の認知が困難となり, 街並失認が生じたと考えられた。本症例の示すような街並失認と同時失認は, 全体把握の障害という共通した特徴を持ち, その背景基盤が極めて近接した障害であることが示唆された。