高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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短報
両側前頭極損傷後自己の将来を計画できずに経過している一例
工藤 由理堂井 真理長谷川 梓
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2013 年 33 巻 2 号 p. 276-281

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抄録

   両側前頭葉先端のブロードマン 10 野 (Brodmann area 10 : BA10) を中心とした脳損傷により, 従来の認知機能検査は一部の下位課題の低下以外は正常範囲であったが, 多重課題で低下を示し, 自己の将来について組み立てられずに何年も経過している症例を経験した。意欲低下や脱抑制もあったが, 指示されれば家事やお使いなどは几帳面によくできた。母親は「この子は, 今を生きているだけなのです。」と訴えた。 BA10 はより高次のゴールを達成するために複数の認知操作を組み合わせていく必要がある状況で動員され, 複数の事柄を同時に処理する関係統合にかかわるとされる (Ramnani ら 2004)。自己の将来について計画できない原因として, 気分や発動性の低下, 脱抑制によりその時々の刺激にひきずられることなども考えられたが, 過去の経験を踏まえて, 自己の要求に沿った, 効率のよい長期の見通しを組み立てるという複雑な多重課題の統合に係わる認知機能障害が本症例の主要因であると考えた。また, この症例に対する認知リハビリテーションについても言及した。

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© 2013 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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