2015 年 35 巻 3 号 p. 292-296
アルツハイマー病などの変性疾患による認知症の言語症状は, 要素的には脳血管障害による失語と共通点も多く, 蓄積されてきた失語の症候学は有用であるが, 一部はまったく異なる視点で捉える必要がある。そこで, 本稿では変性性認知症の言語症状の特徴を, コミュニケーションの困難さという視点から概説しておきたい。認知症者の多くは寡黙であるが, その背景には不安, 抑うつ, 意欲の低下といった精神症状が影響している場合が多い。また, 変性疾患による認知症に伴う言語症状の場合, 失語症状を引き起こしている神経基盤とは直接関係のない, 注意や記憶, 見当識の障害といった全般的な認知症状 (もちろん疾患特異的な症状は多い) を理解しておくことがより重要である。リハビリテーションに関しても, 進行性であるということをふまえて, できるだけ早期に開始するとともに, 失われた機能を回復させようという視点ではなく, 保たれている機能を維持するという視点が必要である。