2016 年 35 巻 3 号 p. 304-311
意味性認知症 (Semantic dementia: SD) における言語性意味記憶障害の病態を検討した。軽度~中等度の語義失語を呈する SD 患者7 例に対して, 慣用句の意味を尋ねた。正答率はわずか 2.9%であり, 全例で著明な慣用句の意味理解障害を認めた。慣用句はそれ自体が意味を持ち, 言語という媒介がなければ成立し得ない知識であることから, 言語性意味記憶の一つとみなすことができる。したがって SD では, 病初期から著明な言語性意味記憶障害を呈することが示された。次いで 1 例の SD 患者に対して, 身体部位と関連する 12 個の単語 (足, 肩など) を用いて, それらの中核的意味 (身体部位としての意味) と副次的意味 (中核的意味から派生した意味で, ゛机のあし”のように暗喩として用いられる意味) の理解を調べた。結果は, 中核的意味は完全に理解できたが, 副次的意味はまったく理解できなかった。この結果から, SD では最初に語の暗喩的な側面が障害され, その後中核となる意味が失われ語義失語に至ると考えられた。