2018 年 38 巻 3 号 p. 331-338
視空間認知障害はよくみられる症候であるが, 失語のように体系化されたリハビリテーションがなく, 長期経過についての報告も稀である。そこで右優位の両側頭頂葉損傷により多彩な視空間認知機能障害を呈した 1 例の 10 年間の経過を観察した。視覚性即時記憶の低下, 視覚性注意の障害は 10 年間大きな改善はみられなかった。一方, 線分の傾き判断や模写などの構成機能の成績は徐々に良くなったが, 体性感覚や言語化など他の機能により補完している様子が観察された。日常生活では, 広い空間での視空間認知障害, 自分が動く際の視覚と他感覚の統合などについての障害が軽度残存していた。このように症状により回復しやすさに差はあるものの, 両側頭頂葉損傷では視空間認知障害が長期に残存する。患者が症状を理解し, それに対応して工夫していけるよう支援し続けることが大切である。