高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
Online ISSN : 1880-6554
Print ISSN : 1348-4818
ISSN-L : 1348-4818
38 巻, 3 号
選択された号の論文の22件中1~22を表示しています
シンポジウム III : 日本語話者における発達性ディスレクシア (発達性読み書き障害)
  • 宇野 彰, 春原 則子
    2018 年 38 巻 3 号 p. 265-266
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー
  • 宇野 彰, 春原 則子, 金子 真人, 粟屋 徳子, 狐塚 順子, 後藤 多可志
    2018 年 38 巻 3 号 p. 267-271
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      発達性ディスレクシアでは, 読みだけの障害例は 40 年近く報告されていない。音読だけでなく書字にも障害が認められることから発達性読み書き障害と翻訳されることが多い。その背景となる認知障害について, 英語圏での音韻障害仮説を中心とする報告および他言語における共通点と相違点について解説し, 日本語話者の発達性ディスレクシア 84 名のデータに関して解説した。その結果, 日本語話者の発達性ディスレクシア児童・生徒の 65% 以上は複数の認知障害の組み合わせで生じており, 音韻障害のみが背景と思われる群は 20% 以下であり, 音韻障害のない群は 20% 以上とむしろ音韻障害を認めない発達性ディスレクシア例が多いことが分かった。

  • 橋本 照男, 樋口 大樹, 宇野 彰, 瀧 靖之, 川島 隆太
    2018 年 38 巻 3 号 p. 272-276
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      本研究では, 十分な検討がなされていない日本語話者の発達性読み書き障害 (Developmental Dyslexia: ディスレクシア) 児の脳形態の特徴を, 定型発達児と比較することで明らかにすることを目的とした。ディスレクシア児 22 名, 定型発達児 49 名 (7~14 歳) の男児を対象とした。読み成績と認知機能検査によりディスレクシア児と定型発達児をスクリーニングした。磁気共鳴画像 (MRI) 装置により, 参加者の脳の高解像度 T1 強調画像を撮像し, 局所灰白質・白質容量を算出した。灰白質容量には定型発達とディスレクシアに差はなかった。白質容量は定型発達のほうが小脳と皮質をつなぐ広い領域で有意に大きかった。本研究で明らかになった小脳と皮質の神経連絡の問題が, 日本語話者における発達性ディスレクシアの原因の 1 つである可能性が推察された。

  • 樋口 大樹
    2018 年 38 巻 3 号 p. 277-280
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      発達性読み書き障害の脳画像研究はアルファベット語圏においては盛んに行われており, 左頭頂側頭領域および左後頭側頭領域の機能低下に加えて左下前頭回の活動亢進が生じることが報告されている。 左頭頂側頭領域の低活動は音韻処理の非効率性, 左後頭側頭領域は視覚的単語認知の拙劣さ, 左下前頭回は音韻出力への代償的な高負荷を反映しているのではないかと考えられている。一方, 中国語においては中前頭回の機能低下を報告している研究もあり, 脳機能低下部位が言語間で共通であるかに関しては今後も検討が必要である。日本語話者を対象とした研究では, 読みが拙劣な人では読みだけでなく線画に関わる脳活動にも非定型性が認められたが, 日本語話者の発達性読み書き障害を対象とした研究は少ないため, 今後より一層の検討が必要である。

  • 春原 則子
    2018 年 38 巻 3 号 p. 281-284
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      発達性ディスレクシアの読み書き困難に対する介入には, 支援と指導という大きな 2 つの方向がある。本稿では, 仮名の読み書き, 漢字の書字に関する 2 つの指導方法を紹介した。いずれも詳細な認知機能の評価から障害構造を推定し, さらにバイパスとして活用できる良好な機能を見出すことによって編み出されたものである。どちらも症例シリーズ研究法によって科学的な効果が確認され, 適用についても明確に示されている。発達性ディスレクシアについては複数要因説が有力であり, 指導方法も一様ではない可能性が高い。さらなる適切な介入方法の立案と効果や適用に関する知見の積み重ねが急がれる。

シンポジウム IV : 高次脳機能障害の診療における多職種連携
  • 三村 將, 種村 純
    2018 年 38 巻 3 号 p. 285-286
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー
  • 森田 秋子
    2018 年 38 巻 3 号 p. 287-291
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      多職種連携を進めるために, 高次脳機能障害に関わる専門職は適切な情報を発信する役目を持つ。 情報はしばしば特徴的な個別症状の説明に重きが置かれることが多いが, むしろ「患者は何ができ何ができないか, どこまでわかっているか」につながる総合的な重症度を示す, 全般的認知機能に関する情報の重要性が高い。認知関連行動アセスメント ( Cognitive-related Behavioral Assessment: CBA) (森田ら 2014) は, 行動観察をもとに全般的認知機能を評価する評価表であり, わかりやすい概念や用語を用い, 専門知識のない職種でも評価や議論に参加しやすい利点を持つ。そのため職種を越えた障害像の共有につながり, 多職種連携のツールとなる可能性がある。
       コミュニケーションを専門とする言語聴覚士は, 高次脳機能障害のリハビリテーションに, 会話を活用できる可能性がある。会話による自己の行動や思考を言語化する過程が, 患者の自己意識への働きかけとなり, 病識向上などへの効果が期待される。

  • 早川 裕子
    2018 年 38 巻 3 号 p. 292-296
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      病院に勤務する作業療法士の立場から, 高次脳機能障害の診療における病院での多職種連携について述べた。高次脳機能障害の診療における多職種連携とは, 高次脳機能障害者やその家族に希望を与える手段であると考える。最初に高次脳機能障害を診断する病院は, 患者にとって, 高次脳機能障害者としての人生の出発の場となる。良い出発となるか否かは, 複数の専門職種が常駐する病院の多職種連携にかかっている。病院には, 病院内の連携と, 退院後の生活に移行するための外部との連携の二つがある。高次脳機能障害の診療においては, 各専門職が障害を理解し, 承認した上で専門性を発揮した連携をすることが重要である。作業療法では「作業」はDoing と Being からなるという考え方がある。この考え方は高次脳機能障害者の診療において有用であると思われる。今後, 作業療法士が高次脳機能障害者を支援する多職種連携の一翼を担う専門職として飛躍することを期待する。

  • 山口 加代子
    2018 年 38 巻 3 号 p. 297-301
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      高次脳機能障害の診療には多くの職種が関わっている。それは, 高次脳機能障害の診療には多面的な介入が求められるからである。その中で, 臨床心理士にはどのような役割が期待され, また, 多職種連携においてどのような役割を果たせるのだろうか。
      高次脳機能障害の診療の特性, 連携の必要性や必要条件, 臨床心理士への期待, 臨床心理士の役割, のそれぞれについて触れ, 臨床心理士の立場から高次脳機能障害の診療における多職種連携について論じる。

  • 田谷 勝夫
    2018 年 38 巻 3 号 p. 302-305
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      全国の主要なリハビリテーション (以下リハ) 医療機関を対象に, 高次脳機能障害者の支援状況および関係機関との連携支援状況に関する郵送アンケート調査の結果を紹介した。リハ専門職の充実したリハ医療機関における高次脳機能障害者支援の現状として, 受け入れ状況はほぼ可能となっている (96.2 %) 。 支援内容は, “診断・評価” から “(生活) 訓練” までの支援は 53.4 %と半数を超えるが, “就労支援” に関しては, リハ医療機関では「独自の就労支援実施」が 19.1 %と少ないだけでなく, 「就労支援機関と連携」も頻繁な連携は 23.7 %にとどまる。支援拠点機関に限れば, 「独自の就労支援実施」は 37.8 %, 「就労支援機関と連携」は頻繁な連携が 73.0 %となっており, 支援拠点機関における支援は, 就労支援までを視野に入れたものとなっている。今後の課題として, (1) 一般のリハ医療機関と支援拠点機関の連携促進, (2) 支援拠点機関と就労支援機関との連携強化があげられる。

  • 櫻井 靖久
    2018 年 38 巻 3 号 p. 306-310
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      高次脳機能障害の医療連携は, 診療科間 (神経内科, 精神科, 脳外科など) , 院内 (医師, 看護師, 医療ワーカーなど) , 院外 (急性期病院, リハビリテーション病院など) の連携の三つに分けられる。診療科間連携では, 内頸動脈, または中大脳動脈主幹部の閉塞に血栓回収療法が有効であることが示されて以来, 神経内科と脳外科の連携がますます叫ばれるようになった。院内連携は, 脳血管障害急性期の治療・リハビリテーションや入院患者の認知症のケアを行う上で, より重要になっている。さらに病院間の連携は, 脳血管障害慢性期のリハビリテーションや認知症患者の地域包括ケアには欠かせないものとなっている。

セミナー II : 症例に学ぶ
  • 小森 憲治郎, 豊田 泰孝, 清水 秀明, 森 崇明
    2018 年 38 巻 3 号 p. 311-318
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      意味性認知症 (semantic dementia: SD) の 54 歳男性の 10 年に及ぶ外来通院時の観察について報告した。初診時, 進行する言語理解障害により業務に支障をきたすようになったという病識を伴い単独で受診した。退職後は農業と言語訓練の自習課題に対する固執性が強まり, 実りの悪い野菜を大量に作る, コピー用紙備蓄のため会社のコピー機を独占するなど行動化が顕著となった。発話は次第に抑揚が乏しくなり, 通院時に行う月間報告などの決まりごと以外の自発話は著しく減少した。5 年目に視空間認知機能はよく保たれていたが, 日常物品を正しく認識し, 適切に使用することが困難となった。7 年目にはどの質問に対しても「分からない」という反応に終始するようになり, 心理検査が実施できなくなった。発話面ではプロソディー障害, 発語失行など非流暢性失語の要素が現れ, 語間代から「と, と, と, と」という同語反復の出現を経て 11 年目には無言状態となった。自習課題を通した読み書きの習慣と特有の報告スタイルは, 口頭言語能力の低下を越えて, 外来通院の期間中概ね維持・継続された。これらの習慣は通所介護サービス利用時や在宅での活動維持の一助となった可能性がある。SD の特性を理解したケアが求められる。

  • 小嶋 知幸, 柴田 晴美
    2018 年 38 巻 3 号 p. 319-330
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      後天性小児失語症の男児の発症から 20 年間の経過について報告した。症例は, 9 歳 6 ヵ月時 (小学校 4 年生の夏) に, 循環器系疾患に対する手術の翌日, 左中大脳動脈領域ほぼ全域にわたる脳梗塞により失語症を発症した。発症 2 ヵ月時より, 筆者らのもとで, 外来での評価・支援・訓練が開始となった。 学校には発症 3 ヵ月時に復学した。小学生の期間は平均週 3 回の訓練を行った。小学校修了後, 中学は心身障害学級, 高校は高等養護学校に進学した。中学進学後, 学校生活が忙しく頻回な来院が困難になった状況を補うため, 週 1 回の頻度で, 言語聴覚士養成専門学校に在学中の学生を児の自宅に派遣し, 筆者のスーパービジョンのもと, 高校 2 年修了時まで学習指導にあたってもらった。この間の言語機能評価は, 児の夏休み・冬休みを利用して, 筆者のもとで実施した。高校 3 年時より, 再び筆者のもとで, 月 1 回の評価・訓練・支援を再開し, 現在もなお継続中である。高等学校在学中には企業研修も経験し, 卒業後, 障害者を積極的に受け入れている企業に, 契約社員として就職した。入社 6 年目より正社員となり, 現在入社 11 年目を迎えている。標準失語症検査 (SLTA) にみる言語機能の推移について述べると, 発症 2 ヵ月の時点では, 総合評価尺度 2 点。理解は単語の水準, 表出は漢字単語が一部可能, 発話は不能 (発声のみ) といった状態であった。1 年 4 ヵ月の時点では, 同 3 点。聴覚的理解に改善がみられたが, 発話は重度の状態が持続していた。2 年 4 ヵ月の時点では同 4 点。仮名の理解と単語の音読に回復の兆しが現れた。 5 年 1 ヵ月の時点では同7 点。呼称・まんがの説明といった自発的な言語表出 (発話・書字) が可能となり, 全体でも大きく症状が動いた。10 年 5 ヵ月の時点では同8 点。さらに仮名の処理 (理解・音読・書字) の改善がみられた。20 年 4 ヵ月の時点では最高点である 10 点に達した。また, 発症から 10 年間の, SLTA 成績と局所脳血流の変遷を分析した結果, 本児の長期にわたる言語機能回復には大脳両半球が関わっていることが示唆された。

  • 鈴木 匡子
    2018 年 38 巻 3 号 p. 331-338
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      視空間認知障害はよくみられる症候であるが, 失語のように体系化されたリハビリテーションがなく, 長期経過についての報告も稀である。そこで右優位の両側頭頂葉損傷により多彩な視空間認知機能障害を呈した 1 例の 10 年間の経過を観察した。視覚性即時記憶の低下, 視覚性注意の障害は 10 年間大きな改善はみられなかった。一方, 線分の傾き判断や模写などの構成機能の成績は徐々に良くなったが, 体性感覚や言語化など他の機能により補完している様子が観察された。日常生活では, 広い空間での視空間認知障害, 自分が動く際の視覚と他感覚の統合などについての障害が軽度残存していた。このように症状により回復しやすさに差はあるものの, 両側頭頂葉損傷では視空間認知障害が長期に残存する。患者が症状を理解し, それに対応して工夫していけるよう支援し続けることが大切である。

  • 酒井 浩
    2018 年 38 巻 3 号 p. 339-346
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      自発性低下は社会的行動障害に含まれる症候であり, 前頭前野の眼窩部, 背外側部, 内側部の情動制御システムが関与している。これらの部位はそれぞれ情動・感情的処理, 認知的処理, 自動的活性化処理の過程に主として関与している。今回我々は右前頭葉内側面から前脳基底部にかけての損傷により自発性低下と記憶障害を呈した症例を担当し, 多彩な臨床症状を分析し, 自発性低下, 記憶障害を特定する過程を示した。さらに自発性低下について情動・感情的処理, 認知的処理, 自動的活性化処理のどの過程に問題があるのかを特定し, それらに対応した介入方法を提案した。本症例では前述した三つの情動制御システムのすべてに問題が認められたが, 介入の結果, 自動的活性化処理過程の問題のみが残存した。この処理過程は本例の主病巣である前頭前野内側部 (MPFC) が主に担う働きであり, その部分の回復が遅れるということが示された。

  • 平山 和美
    2018 年 38 巻 3 号 p. 347-353
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      近年, ヒトの大脳における視覚情報処理には大きく分けて腹側の流れ, 腹背側の流れ, 背背側の流れの 3 つの経路があると考えられている。背背側の流れは, 上頭頂小葉や頭頂間溝に向かい, 対象の位置や運動, 形を分析して, 対象に向けた行為の無意識的なコントロールに関わる。化学療法後に脳症を起こした右利き女性症例について報告する。病巣には, 両側の上頭頂小葉と右の頭頂間溝が含まれていた。患者は, 背背側の流れと関係付けることができる種々の症状を示した。左視野の視覚性運動失調, 自己身体定位障害, 左手の把握の障害, 左側への衝動性眼球運動の方向付けの障害および左視野のオプティックフローの知覚障害である。これらの症状について責任病巣, 詳しい特徴などを, 背背側の流れの機能との関係で論じる。

  • 水田 秀子
    2018 年 38 巻 3 号 p. 354-360
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      「症例を学ぶ」というセミナーにて, 流暢・非流暢, あるいは「歪み」と聞き取れる部分を含む発話に関し検討した失語症例を報告した。「歪み」が dysarthrias, 発語失行 (AOS) によるとの考えは, 本例では否定的であり, 音韻レベル (音韻体系の揺らぎ) の障害による可能性を指摘した。日々の臨床で, 「症例に学ぶ」姿勢の実践を提示した。

原著
  • 小森 規代, 藤田 郁代, 橋本 律夫
    2018 年 38 巻 3 号 p. 361-369
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 患者における仮名, 漢字の書字障害の特性と脳病変部位との関連性を検討した。対象は ALS 患者 14 名と年齢, 教育歴, MMSE 得点を合わせた健常対照群 16 名であった。各対象群に仮名書字課題, 漢字書字課題, 類義語判断課題と線画連合課題を実施し, SPECT を用いて測定した安静時局所脳血流量とこれらの課題成績との相関を解析した。その結果, 仮名の書字障害を 12 名に認め, 音節, モーラ, 文字が対応しない語で多く誤った。また漢字の書字障害を 8 名に認め類音的錯書が特徴的であった。類音的錯書の出現数と類義語判断課題成績の間に有意な相関を認めた。仮名の書字障害は左中前頭回後部, 漢字の書字障害は左優位に側頭葉極部の局所脳血流量と有意な相関を認めた。ALS 患者の中には仮名, 漢字の書字障害を呈する者が存在し, 仮名は左前頭葉後部, 漢字は側頭葉極部の機能低下が関与すると考えられた。

  • 大石 斐子, 藤田 郁代
    2018 年 38 巻 3 号 p. 370-377
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      本研究の目的は, Broca 失語の文産生に文脈情報が及ぼす影響について, 発話の視点選択から検討することである。対象は Broca 失語群 10 名と, 対照群として健常成人 12 名であった。方法は, 文脈がない条件と文脈がある条件を設定し, 動作主視点の文 (あげる文, 能動文) と非動作主視点の文 (もらう文, 受動文) の発話課題を実施した。反応評価は, 発話した文の主語-述語関係が正しいかどうかについて行った。その結果, 文脈なし条件では, Broca 失語群は動作主視点の文より非動作主視点の文の誤りが有意に多かった。一方, 文脈あり条件では, Broca 失語群は文脈に適した発話の視点を選択することができ, 動作主視点の文と非動作主視点の文の誤反応率に有意差を認めなかった。以上から, Broca 失語は非動作主視点の文の統語処理に困難を呈するが, 文脈情報を活用すると非動作主視点の文の産生が改善することが明らかとなった。

  • 藤盛 寿一, 菊池 大一, 遠藤 実, 渡邉 裕志, 目黒 祐子, 中島 一郎
    2018 年 38 巻 3 号 p. 378-382
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      宮城県の高次脳機能障害支援拠点病院である東北医科薬科大学病院で過去 6 年半の期間に, 精神障害者保健福祉手帳申請のために高次脳機能障害診断基準に従って診断した 71 名の高次脳機能障害症例について検討した (厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部ら 2008) 。基礎疾患発症から高次脳機能障害の診断に至るまでに 2 年以上を要した症例は全体の 2 割を占め, 高次脳機能障害支援普及事業が開始された 2006 年よりも以前に基礎疾患を発症した症例が有意に多かった (p=0.0015) 。また頭部外傷, くも膜下出血, 脳出血を基礎疾患とし急性期治療を県外で受けた症例が比較的高頻度であった。

  • 石田 順子, 種村 留美, 上田 敬太, 村井 俊哉
    2018 年 38 巻 3 号 p. 383-390
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      高次脳機能障害を呈する外傷性脳損傷者の就労を目標にリハビリテーションを実施する時に, 明らかな麻痺を呈していないにも関わらず作業速度の低下や作業完成度の低下を実感する。今回, 高次脳機能障害外来通院中で両手動作可能な 14 名の就労世代を対象に, これら作業速度低下の要因について調査を行った。方法は, 神経心理学的検査と職業能力検査を行い, Z スコアを用いて分析を行った。結果, 外傷性脳損傷後の事例では, WAIS-III 成人知能検査 (Wechsler Adult Intelligence Scale-Third Edition : WAIS-III) の処理速度の項目で低下を示した。また厚生労働省編 一般職業適性検査 (General Aptitude Test Battery : GATB) は全項目に低下を示し, とりわけ上肢能力を測定する項目が著明に低下していた。WAIS-III における処理速度の項目には, 認知と運動が関与し, 外傷性脳損傷の場合は, 運動面の低下が多大に影響を与え, そのため作業速度が遅くなる可能性が高いことが示唆された。

  • 浦上 裕子, 山本 正浩, 北條 具仁, 野口 玲子
    2018 年 38 巻 3 号 p. 391-398
    発行日: 2018/09/30
    公開日: 2019/10/02
    ジャーナル フリー

      全盲で空間定位能力障害を合併する脳損傷者の移動能力を検討した。30 歳代女性。右頭頂円蓋部巨大髄膜腫, 開頭腫瘍摘出術後 (楔前部, 頭頂葉外側, 内側部に損傷あり) , 右後大脳動脈領域 (海馬傍回・紡錘状回・舌状回を含む側頭葉内側から後頭葉) に梗塞を生じた。右半球の腫脹あり, 外減圧術・右側頭葉内減圧術が施行された。二次性視神経萎縮による全盲をきたした。自己を中心として対象の位置をとらえることはできたが, 自己または対象の動きが伴うと, 位置関係や運動方向がわからなくなった。触覚的手がかりを用い定点を定めて自己の位置を確認しながら道順を覚えさせ, 目的物や移動の目安を繰り返し言語化しながら誘導することで, 新規の場所でも目的地までの移動が可能となった。全盲で自己身体方向の変化によって位置関係がわからなくなる場合でも, 言語的・触覚的手がかりを用いた歩行訓練で, 統合された空間情報から移動能力を獲得できる可能性がある。

feedback
Top