本研究の目的は, Broca 失語の文産生に文脈情報が及ぼす影響について, 発話の視点選択から検討することである。対象は Broca 失語群 10 名と, 対照群として健常成人 12 名であった。方法は, 文脈がない条件と文脈がある条件を設定し, 動作主視点の文 (あげる文, 能動文) と非動作主視点の文 (もらう文, 受動文) の発話課題を実施した。反応評価は, 発話した文の主語-述語関係が正しいかどうかについて行った。その結果, 文脈なし条件では, Broca 失語群は動作主視点の文より非動作主視点の文の誤りが有意に多かった。一方, 文脈あり条件では, Broca 失語群は文脈に適した発話の視点を選択することができ, 動作主視点の文と非動作主視点の文の誤反応率に有意差を認めなかった。以上から, Broca 失語は非動作主視点の文の統語処理に困難を呈するが, 文脈情報を活用すると非動作主視点の文の産生が改善することが明らかとなった。