2019 年 39 巻 2 号 p. 243-250
本研究の目的は, 観念性失行症状を認めた症例の歯磨き動作の質的エラーに着目し, その介入経過を報告することにある。症例は, 60 歳代の右利きの男性で, 左大脳半球の脳出血後, 4 ヵ月経過していた。 神経学的所見では, 右半身の運動麻痺, 感覚障害, 筋緊張の亢進を認め, 神経心理学的所見では, 運動性失語, 口部顔面失行, 観念性失行, 観念運動性失行, 注意障害を認めた。歯磨き動作は, 「位置の誤り」, 「困惑」, 「拙劣」, 「省略」を認めた。本研究は, シングルケースデザインを用いて実施した。介入は誤りなし学習で, 特定の質的エラーに焦点を当て段階的に介入し, 適宜フィードバックを行った。統計的分析には, Tau-U を用いた。介入の結果, ベースライン期と比べて介入期に「困惑」, 「拙劣」, 「位置の誤り」の質的エラーが有意に減少した。本研究の結果から本症例には質的エラーに対する段階的な介入や, フィードバックが改善に影響したものと考えられた。