神経心理学の研究手法は, 失語症タイプなどの患者群を平均化して集団として比較するような群研究が多くみられたが, 認知神経心理学の研究手法としては元来, 単一症例研究 (single case study) に重きをおいてきた。症例の特殊性を中心に論じ, これにより症例の障害メカニズムを特定できると考えられてきた。本邦でもこの分野における研究は単一症例によるものが多い。しかし, 海外では, 十数年前より 一連症例研究 (case series study) による報告が増加している。これは, 詳細な検査をタイプや重症度の異なる症例に実施し, 症状の分布の中で個々の症例を把握しようとするものである。本稿では, 海外および自験例の一連症例研究を紹介し, この手法により, 意味障害と表層失読との関連, 音韻障害と非語復唱との関連についてより興味深い知見が得られたことを論じた。単一症例研究と一連症例研究を合わせて用いることの利点も指摘されている。