左半球損傷に伴う身体パラフレニアの 1 例を報告した。患者は60 代の右利き男性で, 左基底核, 視床, 島, 前頭葉, 頭頂葉前部の出血後に重度右片麻痺および感覚障害, 中等度失語症を伴ったが, 明らかな病態失認, 半側空間無視, 身体無視は認められなかった。本例の身体パラフレニアの症状は, 右上肢から右半身へと変化している点, 症状が長期持続している点が特徴的であった。また本例は, 自画像描画課題において半身を描かなかった。その他の人物画や静物画でも半側しか描かないことがあった。自身の持つ身体イメージを他者や物にも投影したためと考えられた。本例の身体パラフレニアの発生機序として, 麻痺や障害を否定する一種の抑圧反応である可能性が考えられた。本例は, 発話能力の低下のために身体パラフレニアが露見されにくく, またその後の訂正や批判を受けにくいため, 妄想的解釈がより長期に, 深く定着した可能性が考えられた。