高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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シンポジウム 1 : 高次脳機能障害者・認知症者の自動車運転を考える
失語症と運転
佐藤 卓也
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2020 年 40 巻 3 号 p. 304-309

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抄録

  失語症者の疫学的検討は, 筆者の概算では脳血管疾患に限ったうえで 25 万 4,220 人ほどとなる。 筆者が行った検討 (佐藤 2018) では, 非失語群に比して失語群では MMSE, WAIS-III の記号探し, 数唱, 語音整列で有意に低い成績が認められた。失語群は仮名や漢字などの文字そのものではないが記号といったシンボルを短時間に処理していく作業や, 数字や言語音の音韻表象の操作や処理には不利になる可能性が示唆された。これらの失語群の不得手となる文字・音韻の操作処理といった側面は, 運転場面にもその影響があると思われる。言語は運転過程のあらゆるところにかかわってくるものであり, 運転中まさに刻々と変わる運転状況に応じて道路標識, 目的地の目印などを理解し, 時には音声の指示なども利用し判断・操作を短時間の中で連続的に行っていくという, 高度なレベルで要求される認知処理は失語症者にとって大きな負荷となっている可能性が示唆される。また, 他の高次脳機能障害を合併することもありそれに対しても精査が必要である。失語症者はしばしば麻痺を伴うが, 対応した補助装置を装備した車を運転することは慣れるまでに時間を要する。習熟するまでは認知的負荷量も高いことが推測され, 注意が必要である。

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© 2020 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
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