受容面に比し表出面の障害が重度で, 自発話は無意味性再帰性発話にほぼ限定された失語症例を経験した。本例は単語の復唱も困難だったが, 語音弁別や音韻操作は保たれ, 典型的な失構音や運動障害性構音障害もなかった。そこで, 単語より小さい単位である単音節をランダムに連続して復唱するという能力を精査したところ, 速度負荷がかかる条件で成績が低下した。これを受け, 単音節を「速く, 連続して, 正確に」復唱する訓練を実施した結果, 単語の復唱成績が大幅に上昇した。速度負荷がかかる条件で単音節を連続的に復唱する能力が低下したのは, 構音実現過程における構音素 (構音の運動記憶) 選択処理の脆弱性に原因があると考えられた。構音素選択処理は発話の最終段階の 1 過程であるため, この障害は復唱以外の発話モダリティにも影響を及ぼすものと推察された。また, この障害を失構音と捉えるか否かは今後の検討を要し症例の蓄積が待たれるところである。