左の前頭葉と頭頂葉の梗塞後に, 道具使用の障害を呈した症例を報告する。日常生活でも検査場面でも, 主に道具とその対象物品との対応にのみ誤りを示した。道具と対象物品が一対一で与えられれば, 道具を扱う操作自体には問題がなかった。道具の呼称, 道具使用のパントマイムの理解, 道具の構造の知識は保たれていた。しかし, 道具に合う対象物品を選ぶ課題も, 対象物品にあう道具を選ぶ課題も著しく困難だった。反応に際しては, すべての選択肢を点検する, 「わかりません」と述べる, 考え込むなどの行動がみられた。道具と対象物品との対応の誤りは, 実物品, 線画, 文字いずれを用いて検査しても明らかであった。そこから, この障害が意味記憶へのアクセスに関連する可能性を考えた。見出された障害の特徴に基づいて, 家人などに眼前の選択肢を少なくする環境調整を促したところ, 道具使用に際しての問題が減り介護負担感も軽減した。