2022 年 42 巻 3 号 p. 348-355
道で迷う症状を呈す地誌的失見当はいくつかの要素から成り, その 1 つに道順障害がある。この道順障害の病態は複雑で不明な点が多い。そこで腫瘍摘出後に道順障害を呈した症例の病態を検討した。症例は 71 歳, 右利きの女性。右頭頂-後頭葉内側部の髄膜腫摘出術後, 街並みの同定は可能であったが, 術後 3 ヵ月時点で馴染みの薄い道で迷う症状が遷延した。本症例の地誌的見当識は, 心的回転と空間定位ともに低下しており, 自己の身体を基準とした自己中心座標系と自己以外の環境内の対象物を基準とした他者中心座標系の空間認知に障害を示していた。これより本症例の地誌的失見当は道順障害に egocentric disorientation を伴った病態であったと考えられた。