左手に拮抗失行を示したのち, 入れ替わるようにして右手に道具の強迫的使用を示した症例を経験した。症例は脳梗塞発症後 5 日目に脳梗塞を再発し, 新たに左前頭葉内側と脳梁膝部が損傷された。発症から約半年間は, 左手に拮抗失行が認められたものの, その後消失した。左手の拮抗失行の消失に続いて, 右手に道具の強迫的使用が観察された。これまで意志に反する一側の手の動きが左手から右手へと継時的に変化したとする報告はない。症状の経時的変化については, 補足運動野の制御機構における機能的変化が関与し, 拮抗失行の消失とともに潜在的に存在していた右手の道具の強迫的使用が顕在化した可能性が考えられた。また, 道具の強迫的使用に対して, 視覚刺激を用いた環境設定により状況依存的な効果が示唆された。