2023 年 43 巻 4 号 p. 258-265
Nurturing 症候群がフレゴリの錯覚に移行した右中大脳動脈領域梗塞の 1 例を報告した。症例は 75 歳女性で, 8 年前に夫と死別してからは独居だった。左片麻痺をきたす脳梗塞を発症し当院に緊急入院した。本例は, 個室に入院中は夫が健在であるかの如くふるまい続け (nurturing 症候群) , 回復期病院に移ると周囲の男性患者を夫に誤認するようになった (フレゴリの錯覚) 。本例の nurturing 症候群とフレゴリの錯覚には, 夫への思慕が呼び起こした自伝的記憶と, それに伴う情動が共通してあると思われた。 また, 故人が現世に存在するという不合理な信念が持続した背景には, 右前頭葉の機能低下が関与していると考えられた。さらに本例の示した経過から, nurturing 症候群とフレゴリの錯覚とを分ける要因として第 1 に考えられたのは, 患者をとりまく人的環境だった。