人間生活文化研究
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原著論文
ラットにおけるヘキサクロロベンゼンの母親体内蓄積と母乳移行に対するpaired feedingにおける脂質レベルの影響
酒本 光子池上 幸江
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2016 年 2016 巻 26 号 p. 263-270

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抄録

【目的および方法】 PCBやダイオキシンなど毒性の強い有機塩素系環境汚染物質が母乳を介して乳児に移行し,子どもの健康状態に影響を及ぼすことが報告されてきた.前報において,著者らはモデル化合物として人母乳中からも検出されているヘキサクロロベンゼン(HCB)を,母親ラットに投与し,母親体内での蓄積と乳児への移行に対する飼料中の脂質レベルの影響を検討した.この実験ではラットの飼料は自由摂取とした.その結果,高脂肪食群では母乳中のHCB量が低いが,乳児の体内蓄積量には差異がみられなかった.高脂肪食群では飼料摂取量が低く,その結果HCB摂取量も低くなったために,母親と乳児ラットにおけるHCB蓄積量について高脂肪食の影響と断定することができなかった.そこで,本研究ではコントロール食,低脂肪食,高脂肪食の各飼料の脂質レベルは15.8%,5%,50%として,エネルギー摂取量,脂質と炭水化物以外の栄養素の摂取量,HCB摂取量はpaired feedingによって同量とした.その他の実験条件は前報と同様である. 【結果】 妊娠期・授乳期の母親ラットの体重,脂肪組織,肝臓と腎臓重量には飼料中の脂質レベルの有意な影響はなかった.乳児では,生後間もなくは高脂肪食群,低脂肪食群で体重が有意に低かったが,生後15日目では高脂肪食群で低脂肪食群に対して有意に高くなり,肝臓や脂肪組織の重量もコントロール食群に比べて有意に重くなった.妊娠期ラットのHCB蓄積量は高脂肪食群で肝臓において他の2群に比べて有意に高く,脂肪組織で高い傾向であった.授乳期ラットでは子宮周辺脂肪ではHCB蓄積量は低脂肪食群,高脂肪食群では有意に高くなったが,肝臓では高脂肪食群は有意に低くなった.他方,乳児では生後10日目,15日目では後腹壁脂肪や肝臓のHCB蓄積量には3群間で差がなかったが,胃内容物中のHCB量は高脂肪食群では有意に低かった. 【考察】 以上の結果は多くの点で飼料を自由摂取とした前報の結果に類似していたが,自由摂取の場合には授乳期ラットの体重や脂肪組織重量にはエネルギー摂取の増加が影響しているものと思われた.エネルギー摂取に差異があっても,高脂肪食は母親ラットのHCBの体内蓄積を高め,母乳への移行は抑制することが分かった.しかし,乳児においては,高脂肪食の母親からの母乳を介するHCBの移行が抑制されるものの,脂肪組織が大きくなり,体内に長くとどまる可能性も示唆された.なお,低脂肪食ではコントロール食との違いは顕著ではなかった.

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© 2016 大妻女子大学人間生活文化研究所
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