2018 年 2018 巻 28 号 p. 50-60
筆者らは,運動不足と体力向上の維持および自分文化理解の目的のために,現代の幼児・児童に有効な活動として,“低重心の動き”と“言葉と身体の協応”の動きが組み込まれている伝統芸能の動きに着目した.筆者らが作成した”ひふみ体操”は,日本の伝統的芸能の中で行われる特徴的動きを幼児の遊びの中に取り入れることで,現代の幼児期に実施されなくなりがちな下方重心型の活動と“多様な動き”の経験を補うことを目的とする.具体的には,能・狂言,日本舞踊に出てくる,日本古来の動き(例 同側動作,片足で踏ん張る,片足で跳ぶ,ヤットン拍子)を体操の中に設定した.
次に,身体と精神活動が分離しがちな現代の子どもの傾向を回避するためと,幼児期に必要とされる五感刺激によるボディイメージの獲得をさらに強化するため“ひふみ体操”は歌や言葉に出してその意味や意図を身体で体現する」遊びを組み込んだ.もともと日本の古来の芸能は,舞踊者が歌に合わせて自ら舞うという形式があり,また日本の伝承遊びには,わらべうた,お遊戯など,歌唱とともに身体で表現する遊びが多く見られることから“ひふみ体操”もそこに着目し作成した.
今回の報告は,あとで報告する”ひふみ体操“の教育実践効果報告の前段階として,“ひふみ体操”実践時の心拍数とサーモグラフィーの皮膚最高温部位の検出より,体操の運動負荷的特徴と動作特徴を他の体操と比較を用いながら分析することで,“ひふみ体操”自体の客観的特徴を明らかにすることを目的とした.
心拍の変動は,“ひふみ体操”は開始後1番から4番までの時間経過に伴い徐々に75‐80‐100越えまで緩やかに上昇してゆく傾向になった.ラジオ体操は,後半80過ぎを横ばいで維持する傾向が見られた. また“ひふみ体操”は,下肢部下部の側面と後面が(太ももからふくらはぎにかけての側面と後ろ側,足首にかけて側面と後ろ側)各動きを通じてしっかりと使われる運動であった.一方,下肢の前面部(ひざ下の前面部分)は側面部や後ろ側の部位と比較すると高温度を示さなかったことから,“ひふみ体操”は全体的に下肢の前側よりも側面部や下肢の下部後ろ側をよく使う体操であることが明らかにされた.
総合すると,ひふみ体操はラジオ体操との比較から身体の多様な部位と動きを用いる体操であることが明示され,子ども向け体操として妥当であるとの判断に至った.