人間生活文化研究
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原著論文
旧英領カリブ海地域における白人性の多様性
―バルバドスとトリニダードの比較―
伊藤 みちる
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2018 年 2018 巻 28 号 p. 660-695

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抄録

 本稿は,旧英領カリブ海諸島におけるヨーロッパ系白人のアイデンティティとしての白人性の多様性に着目し,バルバドスとトリニダードを例に,白人性の違いやその特徴を探るものである.この課題は,フランス系トリニダード人の白人性構築の過程について探った拙稿 “Constructing and Reproducing Whiteness: An oral history of French Creoles in Trinidad” (2016) [1] と“French Creoles in Trinidad: Constructing and Reproducing Whiteness” (2006)[2] において,フランス系トリニダード人が他ヨーロッパ系白人と同一視されることが不本意であると強調していたことに端を発する.本稿では特に「ヨーロッパ系白人とは誰か」という問いを中心に,蓄積が少ないカリブ海地域の白人性に関する実態の一端を明らかにすることを目指した.そのため2016年8月と2017年2月にバルバドスとトリニダードを訪問し,ヨーロッパ系白人であると自己認識し,他者にも認識される者を対象にオーラル・ヒストリーの聞き取りを行った.本稿で引用した各島5名分の語りの分析から明らかになったのは,バルバドスのヨーロッパ系白人は自身の混血の事実を隠そうともせず,身体的特徴が許す限りバルバドス社会ではヨーロッパ系白人として認識され,ヨーロッパ白人として名乗れるということである.他方,白人としての純血性が重視されるトリニダードでは,ヨーロッパ系白人は自身の混血の可能性を否定し,異人種間結婚に嫌悪を示す者が多かった.バルバドス総人口の2.7%,トリニダードの総人口の0.7%しか存在しないヨーロッパ系白人が,今後も「白人」であり続けることは,特にこのグローバル化が進んだカリブ海地域では困難である.そのような状況下においてなぜヨーロッパ系白人としてのアイデンティティを強固に持ち続けるのか.それについては,後続研究としてヨーロッパ系白人と非ヨーロッパ系白人の交流に注視していきたい.

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© 2018 大妻女子大学人間生活文化研究所
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