人間生活文化研究
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資料
翻刻 北村喜八作「ユージン・オニール」
山名 章二
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2019 年 2019 巻 29 号 p. 119-128

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抄録

 これは草稿転写の報告だが, 解読に詰めも残しており, 資料の紹介ノートと呼ぶのがふさわしい. 原本は日本放送協会のラジオ放送劇の脚本で, 金沢市在石川近代文学館に北村喜八関連資料の一として所蔵されている. 放送は日本の連合国軍への降伏からほぼ三年後, 1948年8月であった. 築地小劇場に始まり演劇界で広範に活躍し, 英米さらにドイツの文学作品を幅広く翻訳出版, 数多の著書を公刊, 晩年には日本の劇界を代表して国際的に活動し, その中でオニールにも上演に翻訳に深く取り組み続け,文通もあった北村喜八の執筆による. その内容はオニールが波乱の青年期を終え演劇に確固たる基盤を築く頃をセリフ劇形式で跡付け, その後の主要戯曲および近作情報を紹介し, オニールの一層の活躍への期待も込められている. 1946年初演の The Iceman Cometh はいち早く触れられているが, 没後25年を経て公開するよう遺言されることになる Long Day’s Journey into Night への言及はない.当然ながら.

 アメリカ文化に大いに関心を寄せその影響も色濃い1920年代, 30年代の日本がアメリカ演劇を受容した熱気を戦後に復興しようとする意欲をも窺わせる資料である.

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© 2018 大妻女子大学人間生活文化研究所
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