ストラスブール大聖堂の南翼廊内に立つ《天使の柱》(Figs. 1–3)は,一本の柱に彫像を配することで〈最後の審判〉を描き出した,13世紀初頭の作品である.本稿は,《天使の柱》を独立柱(Freipfeiler)の発展史上に位置付けることにより,その造形原理の解明を目指した.第2章にて,本作が特異な形式であるがゆえに類似例がなく,考察の余地があることを確認したのち,以下の章でその特質を浮き彫りにした.まず第3章で柱あるいは柱モティーフと彫像を組み合せた作例との比較に基づき(Figs. 5, 6),柱と彫刻の両者が記念碑性を備え有機的な関係の中に図像を展開させた点を,《天使の柱》の特殊性として指摘した.第4章では図像の観点から検討し,その表現システムをタンパンのそれと比較した(Fig. 7).その結果,二次元的なヒエラルキーにより理論的かつ明快な図解を可能にしたタンパンとは相反する性質を《天使の柱》が有することがわかった.
本稿の後半では柱に注目した.まず第5章にて,ドイツ特有のホール式聖堂の発展プロセスをたどることで,独立柱が有する表現力の可能性を明示した(Figs. 8–10).壁面から解放された独立柱は,バシリカ式空間のピアとは異なり,均質空間の中で存在感を増し,さらにヴォールトと滑らかに連携することで新たな表現力を獲得したのである.《天使の柱》ではこれと同じ志向が,しかし彫像を介するという異なった方法で追求されたと解釈できる.最後に第6章にて,柱,彫刻,そして両者の融合という観点から,《天使の柱》が有する表現性を分析した.
以上から結論として,《天使の柱》において,彫刻は柱の特性を受け継ぐことで威圧的に空間を支配し,あわせて,彫刻の有する優美さと具象性が柱に新たな表現力を付与したといえる.タンパンなどの二次元的な表現と比べて,柱を主体とする《天使の柱》は空間や観者との連続的な関係の構築が容易であり,そのため直感的な演出を得意とする.また同時に本作は,立体であるがゆえに時間的性格を内包し,すべてを一瞬で把握できないがために不明瞭であり,それが神秘性を高め畏怖の念を助長することになった.ゴシックへの移行期において,《天使の柱》では柱の一部が彫刻へ置き換わり,独立柱としての類例なき表現が実現したといえよう.